お蔵出し短編集
葡萄の街の残り香
『叔母と仲が良い』というと、変に聞こえるものなのだろうか?
そんなことを僕は時々思う。
だって、その話をするとみんな何とも言い難い微妙な表情を浮かべるからだ。
でも僕にとって叔母は元々直接血の繋がらない姻族である訳で、僕の父は叔父と十も歳が離れていた。
加えてそんな叔父にとっても叔母は幼妻で、僕とはたった三つしか歳が違わなかった。
必然僕と叔母は、叔母と甥と言うよりは姉弟や友達、それに近い関係になっていたと言えるし、僕が抱いた感覚や感情もそう言ったものだった。
違う点があるとすれば、叔母は雰囲気が全体に幼くて僕より年下に見られることすらしばしばあったと言うことと、それでも僕にとって叔母は既婚者で、人生という尺の中で見た場合明らかに先輩で、何やら大きな壁の向こうにいるのだなという感覚を忘れた頃に感じさせることがあったくらいだろうか。
そんな風に僕らは不思議な上下関係だった。
叔母はお菓子の話に目を輝かせたかと思ったら、次の瞬間に口をつく言葉は重みがまるで違ったりした。
例えば家の金銭管理のことだとか、将来設計の具体的な文言であるだとか、ふとした弾みに口をつくそうした言葉のひとつひとつが僕と叔母の世界の違いのようなものを実感させることが時々あったが、しかし絶対数としてその機会は多くはなかった。
だからぼくは叔母と仲が良く、姉弟、あるいは兄妹、もしくは友達のような間柄と評して概ね問題はなかった。
僕が今それを過去形で語るのは、別に叔母と甥で俗っぽいロマンがどうこうとか言う話に発展したとか訳では勿論なく、ただ、直球端的な事実がそこに発生したに過ぎない。
叔母は死んだのだ。
もうこの世にいない。
だから、僕はすべてを過去形で語らざるを得ない。
ここで僕が思い綴るのは、ただ、それだけの事なのだ。