お蔵出し短編集
オレは最後まで信じちゃいなかったのに。
こんなふうに消えてしまうなんて。
驚くと言うより、あきれた。
人の話は聞くモノだ。
でも、
救われたのは彼女じゃなく、オレなんだろう。
ここでこうして生きているオレなんだろう。
オレは柵から立ち上がり、眼を細めて昇る朝日を見た。
オレの当たり前の人生に、もう、こんな事は二度と無いだろうけれど―――。
「なあ、人生に死ぬほどつらい事なんて、本当はないんだぜ?」
辺りの空気に乗せるように、オレはそう言葉を流した。
そして、振り返り、公園の外に向かった。
ふと途中で気がついて、ポケットの中を探った。
そこには無意味な小箱がいまだ鎮座ましましていた。
オレはそれを公園のゴミ箱にそっと落とし込み、一度だけ背伸びをして、あ、と間抜けな声を漏らした。
「そう言えば、結局お互いに名前も名乗ってないぞ、オレたち」
そのつぶやきに応じるように、風が流れた。
ふとその中にあいつの笑い声が聞こえた気がした。
まあ、それはそれで良いのか。