お蔵出し短編集
ところで、私は人間ではない。
人間のように創りあげられてはいても、絶対的に無機質だ。
有機的な成分は体表を覆う人工的な皮膚組織しかない。
その下には金属の骨格と、効率的なエネルギー伝達回路と、高密度の電池と、幾分かのマイクロチップがあり、『プログラム』に従ってモノを考え行動するのが基本的かつ絶対的な私の在り方だ。
人間を部分的に無機質なモノで強化するのがサイボーグなら、私は『アンドロイド』と表現するべきモノなのだろう。
そうした分類そのものは私にとってそれほど深い意味があるわけではない。
ただ、
自分が何者であって、
どこに立脚するのか
だけは知っておく必要があるから、識っているだけだ。
だが、
私を創りあげたのは人間で、不完全な人間が創りあげるモノであるからには、私も不完全であるのは自明の理だ。
そして私は今、思っている。
私の外見は完全に人間だろう。
多分街行く私を見て、その下に機械の骨格や合成繊維の筋肉が走っていると思う者は皆無に違いない。
そしてそのような私は、私が不完全であるが故に、今私は非常に人間くさい仕草を取ることを余儀なくされている。
つまりは、頬を掻き続けること。
そこから生まれる快楽に浸り、それを途切れさせることで生まれる不快感を避けようとしている。