お蔵出し短編集
―――だそうだ。
僕は正直面食らった。
そして同時に頭の中に、宝くじで一等が当たって途方に暮れた顔をしていた情けない父の面影が過ぎった。
この文章と、父親の姿がどうにも一致しない。
そして何より、母親がこの文章の宛先であると言うことがイマイチしっくり来ない。
だがしかし、筆跡は僕が知る父親のものに間違いはなかったし、封筒の宛名に書かれている名字は母の旧姓に違いなかった。
「あら、出てきたのね、それ」
背後から急にそんな声が聞こえたので、僕は驚いてびくりと身をすくめた。
見るまでもない。
しかし、そう声をかけてきたのはやはり間違いなく僕の母だった。
母は「ふうん」と目で言いながら、しげしげと手紙を眺めていた。
そして、ひょいと束を僕から取り上げると、次の手紙からいきなり目の前で開き始め、どかっと腰を下ろして黙々とそれを読み始めた。
僕は途方に暮れた。
何しろ、母はそれを読みながらひと言も発しないくせに、神妙な目つきをしたり、眼を細めたり、ニヤニヤしたりと百面相にきりがなかったからだ。
で、僕はと言えば、父が母に当てたラブレターのような束を、母が今改めて読んでいる様を目の前にして、なすべき事も見当たらずに立ち尽くしているというワケなのだ。
それで結局僕は、諦めた。
どかっと僕も座り込み、母親がそれを読み終わり、片付けを再開するのを待つことにした。
母は、動かなかった。
じっくりと束になったそれらを全て読み終わるまで、動くことは絶対になさそうに僕には思えた。
たっぷり、それから1時間近くが経った。
それを待つ間の僕は、実際凄まじく複雑な気分だった。
しかしやがて手紙の束に全て目を通した母は、一度だけ目を閉じて天を仰ぐようにすると「ふう」とため息をついた。
そして、ニコリと笑うと、ひと言こういった。