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お蔵出し短編集

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急に脳裏に病室のイメージが甦り、激しく体が揺れる感覚があった。
「透!」
そう叫んだのは真由美と、それと他の誰かだった。
僕の全身に奇妙な感覚が走る。
世界から肉体が遊離するような感覚。
いや、もっと乱暴に、肉体から精神が無理矢理はぎ取られるような感覚。
誰かが僕の「肉体」を掴んで揺さぶっている。
僕は、「夢から覚めようとしている」のだ!
「真由美、僕は」
言葉を発しようとすると、異様な痛みが全身を貫いた。
それは真由美の精神が、明らかに異物と認めた僕を排除しようとするためなのか、僕の心があるべきとこところへ戻ろうとするために起こる、ゆがみを矯正するための何らかの軋みなのか。
夢の世界から、目覚めるとき、その世界から人はただ消え去るのではない。
本能的な直感で僕は理解した。
自分を呼ぶ声に応えてでも、人は現実に帰ることができるのだ。
だがそのために襲ってくる痛みは尋常なものではなかった。
痛みに耐えかねて僕は思わず叫んだ。
「透、透!しっかりして!」
その声には聞き覚えがあった。
真由美じゃない。
真由美は倒れた僕の肩を掴んで揺すっているが、もう何を言っているのか聞こえない。
真由美の手の感覚が薄れ、別の誰かが僕の肩を掴んでいる感覚が僕を支配する。
「真由美!」
僕は叫んで、真由美の右手を掴んだ。

「真由美は眠り続けているんだ!
 四年前の交通事故以来、眠ったままなんだ!
 頼むよ、お願いだから起きてくれ!
 ここは現実の世界じゃない!真由美の夢の世界なんだ!」

僕の唇は動いていただろうか。
僕の声帯は真由美の夢の中で震えていたのだろうか。
もう、自分の声が真由美に届いている自信はなかった。
ただ、全力で叫んだ。
真由美が大声で何かを僕の耳元へ訴えた。
世界が振動する。
未曾有の大地震のようだ。
教会の天井からパラパラと漆喰が落ちる。
真由美が最後に、強く僕の手を握りかえした。
作品名:お蔵出し短編集 作家名:匿川 名