お蔵出し短編集
なのにその日、僕はなぜか真由美の手を握り、目を閉じた。
なぜそうしたのかは僕にも分からない。
消えきれない真由美への愛のせいなのか。
ただ、突然胸にあつい塊がこみ上げてきたかと思うと、たまらなくなって真由美の手を握っていた。
西日が妙に白くなった真由美の横顔を照らしあげ、その一瞬、僕が真由美の髪の中に輝くものを一筋見たからなのかもしれない。
黒くてつややかな真由美の髪の中に、白いものを見つけたその一瞬。
僕の中に真由美のいない4年という歳月が実体となって甦ったからなのかもしれない。
真由美と過ごすはずだった4年間を、その1本の白髪に見たからなのかもしれない。
こらえきれず、目を閉じた。
涙が今にもこぼれそうだった。
僕は自分が、まだこんなにも熱い思いを真由美に抱いていたことに自分でも驚いていた。真由美。
もう一度、話がしたい。
心底、そう願い、目を開いた瞬間、僕は真由美の世界にいた。
それがここへいたる道のすべてだった。