素直になれない
Episode.2
翌日、会社に着くと進藤はすでに来ていた。「進藤、昨日頼んだ仕事の進み具合は?」
「あ…それなら終わりました。チェックお願いします。」
「え…。」
俺は昨日相当の量の仕事を進藤に渡したため、新人だし3日くらいはかかるだろうと思い込んでいた。
嘘だろ?こいつまだ出社2日目だぞ。そんなのありえるわけ…。そう思いながら資料を受け取り、ミスがないかくまなくチェックしたが、どうも見つからない。
「完璧だ…。」
こいつもしかしてすげぇ奴なのかも…。いや、ないない。どうせまぐれだ。
しかしその日一日進藤の様子を見ていたが、昨日教えたことはもうすべて覚えていて、まるで言うことなしだった。
俺はそんな完璧な進藤を見ていて悔しかったので、どこかには欠点があるだろうと、それを探ることにした。
「おい、進藤。今夜俺と飯食いにいくぞ。」
「え…?」
「なんだよ。行きたくないのか。」
「いえ…。行きます。」
進藤は下を向いて返事をした。
店に入るといつものように気前のいい店員の姿があった。
「いらっしゃい!あら、足立さんじゃない。いつもありがとねぇ。」
「いえいえ。こちらこそ。」
「先輩…常連なんですね。」
「ん?ああ。ここの店すっげーうめぇからよ。」
この店に来ると気が緩むんだよなぁ。雰囲気もいいし、やはり店員の対応も心地いい。
そう思いながらチラッと進藤の顔を見ると、目を丸くして驚いているようだった。
「なんだよ?」
「いえ…その…先輩もそんな風に笑うんだなぁって。あっいえ、あのこれは…。」
進藤はそういうと顔を真っ赤にしてまた下を向いた。
なんだこいつ…。耳まで真っ赤じゃねぇか。可愛いやつ。ってなんだよ可愛いって!何考えてるんだよ俺は...。
「ま、まぁ座れよ。」
「はい…。」
それからは、欠点を見つけてやろうと思っていたのも忘れて、俺はどうしてか、進藤の食べる様子やしぐさを、ただまじまじと見ているだけだった。
「ご馳走様でした…。」
「お、おう!それじゃまた会社で。」
そう言って俺は足早にその場を去った。
どうしちまったんだよ…俺…しっかりしろ…!