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縁結び本屋さん~神様のご利益~

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 ふっと目が合った瞬間に、やばいと言うような雰囲気で視線をそらせたいぬまさんは、そのまま俺の視界から姿を消してしまう。
 困ったなあと俺は頭を書いて、受け取れないままのプレゼントを眺めた。
「……あの、さ」
「は、はいっ!」
 何を言うかも決まっていないくせに、話し出してしまった俺は、きらきらと輝く女の子の視線に耐え切れずに視線をうろつかせる。
 異様に興奮した空気に耐え切れず、もうため息を吐きたい気分だ。
(……それやっても別にいんだけどさあ)
 それをしてまた友人に知られでもしたら「この冷血男め!」とか怒られるんだろ?
 そんな面倒くさい事したくないんだよなぁ……。
(……ま、いっか)
 親友に一週間罵倒され続けるのと、このきらきらした目に耐え続けるのとどちらが楽かなんて決まっている。
「……ええと、気持ちは嬉しいよ」
「は、はい」
「でもさ、俺自分のどこがいいのかちっともわかんないし、多分きみも俺の悪い所全然知らないだろうし。だからこう言うのされてもちょっと困るんだよね」
 最初のひとことには目どころか顔までもきらきらと輝かせた女の子だったが、俺の言葉が進むにつれてどんどん俯いていく。
 まあそれもそうだろう。
 縁結び本屋さんなんて呼ばれている場所で――多分成功すると思い込んでやってきたのだろうから。
「……す、すみません。あの、あの」
「可愛いとは思うけどね。俺よくわからない人からこう言う事されても素直に喜べる性格してないんだ。で、キミもこう言う人だって知らなくて今幻滅しただろ?」
 うつむく女の子からは表情が読み取れないけれど、何も言わないところからするとその通りなのだろう。実際俺が女の子でこんな事言われたら幻滅するだろうし。
「だから答えは『ごめんなさい』。でも気に入ってくれた気持ちだけは嬉しいから、ありがとう」
 俯いている女の子に対して、そこそこ柔らかく聞こえるようにがんばってはみた。
 でもまあ言っている事は『お断りだ』なんだから、声なんてどうでもいいような気もする。
 動かなくなった女の子を見ながら、俺は反応が戻ってくるのを待った。
 ここで何かを言っても逆効果だろうし、俺にできることはもうないだろう。
(……なるべく早く動いてほしいんだけどなあ)
 動かない女の子は、もしかしたら泣いているかもしれない。
 でも好きでもない女の子と無理矢理付き合ったって、そんなの破局が目に見えてるし意味がない気がする。
 ごまかしごまかしで付き合うより、綺麗さっぱりふってあげた方がらくだと思うのは俺だけなんだろうか。価値観は人それぞれだと思うけど。
 そんな事を思っていたら、まだうつむいたままの女の子が喋った。
「……幻滅、なんてしません」
「ん?」
「ふられちゃって、ショックですけど。わたし幻滅なんてしてません」
 顔を上げた女の子の目は少し赤かった。
 泣いていたのかそうじゃないのかはわからないけれど、とにかく俺が傷つけてしまったことは間違いないようだ。それでも、やっぱり申し訳なくは思うけれど、後悔はできないし、付き合おうとも思わない。
「ちゃんと嫌なら嫌って言う人だと思ってました。やっぱり想像してた通りの人だった」
 そうしてにこっと笑った表情に、不覚にもどきっとした。可愛いな。
 ありがとうございましたと女の子は言ったけれど、プレゼントを差し出している手はそのままだ。
 真っ直ぐ伸ばしていた腕は、疲れてきているのか少しだけ震えていた。
「……あの、ひとつだけ我侭言ってもいいですか?」
「なに?」
「最後の思い出に、これだけもらって下さい。捨てていいですから」
 ……そんな事言われたら捨てられなくなるんですけど。
「ごめんなさい。我侭だってわかってるんですけど、持って帰っていったら未練がましくなりそうだから」
 そう言って笑った彼女は傷ついた笑顔をしていて。
 それは俺のせいなんだから当たり前なのだけれど。
「……まあ、それぐらいなら」
「ありがとうございます! そ、それじゃすみませんでした」
 プレゼントを受け取ると、ほっとしたように彼女は笑った。
 そのままぺこりとお辞儀をして、去っていく彼女の姿を俺は振り返らずに送った。
 少し下手な包みのプレゼントをどうしようかと一瞬考えて――捨てるに捨てられず鞄の中へと詰め込んで、俺は適当に本を選んでレジへと向かった。

「ありがとうございます。お会計599円ですね」

 レジへ向かうと、いつの間にか店長さんが座っていた。
 丁寧にカバーをかける手つきは綺麗で、人形みたいだ。
「いつもありがとうございます。どうぞ」
 カバーのかかった本を渡されて、レシートを受け取った後に外へと出る。


「……あー……つかれたー……」


 暇つぶしに来てこんなに疲れた経験なんてない。
 しかもなんというか、後味の悪い感じだ。
「……帰って寝よ」
 肩を落として、そんな事を呟きながら家へと戻っていく。




 結局プレゼントは家に帰ってから開けた。
 予想に違わず、中に入っていたものは手作りのクッキー。

 捨てるに捨てられなかったから、食べてみた。

 おいしかった。