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縁結び本屋さん~神様のご利益~

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少女の告白







 俺の家の近所には、本屋がある。
 さして大きいとも思えない本屋で、正直言えば品揃えも中の中と言う平々凡々な店だ。
 それでも、多くの客がそこを利用しているのには、理由があった。

 店員の数も多くない。
 いつも居るのは、長い銀髪――白髪とは色が違う――の美人な店長(男)と、あまり特徴のない外見の優しそうな大学生の男の人。
 綺麗な店長さんは、睫毛も長いし奇抜な髪の色をしているからすぐにわかるのだけれど、 もうひとりは多分、エプロンをしていなかったらわからないと思う。
 名札に「いぬま」と書かれているのを、最近やっと覚えたところだ。

 店に居るのは飛びぬけて――それこそ芸能人にも引けを取らないような美人だけれど、客の目的の多くはその店長ではない。
 その店には噂が存在しているのだ。
 よくテレビに出ている、UFOが居る居ない云々で激論を飛ばしている否定派の研究家が聞いたら、鼻で笑い飛ばすような噂だ。実を言うと俺もあまり信じてはいない。
 俺が信じようが信じまいが、その噂を信じて実行する人は多くて、本屋の客には入る時にひとりだった客がふたりに増えている事が多くある。
 まあそんな状況を何度も目撃しているのだから、あまり信じてはいないけれど、否定もできない現状だ。

 その噂にタイトルをつけるとすれば多分こうなる。


『縁結び本屋』


 なんて。まあそれそのままの名前で噂されているだけだから、名づけ親は俺じゃない。





   *   *   *





 ところでその店は、俺の家から三軒先にある。
 小さな頃から俺はそこによく通っていて、店に入れば店長さんが声をかけてくる程度には常連だ。
 店員の「いぬま」さんにもどうやら顔を覚えられているらしく、笑って「いらっしゃい」と挨拶をされたりもする。なので、最近まで顔と名前が一致していなかったのが申し訳なくてしょうがなかった。

 ところで店の品揃えが平々凡々だと言ったのだが、一部そうじゃない部分もあったりする。
 一般的な品揃えで言えば、店の規模に比例していると言っても過言ではないけれど、一部のジャンルに対して、非常にマニアックな品揃えがあったりするからこの本屋は面白い。
 特に多いのが絵本。絵本と言えば子供だけれど、この店にあるのは大人向けの絵本と言う奴だ。
 シュールなものから、物凄く深いものまで、そこまで棚がある訳ではないけれど、とにかくマニアックな本が並んでいるのだ。
「あ、いらっしゃい」
 店を物色していた俺に、声をかけてきたのはいぬまさんだった。
 はたきを持って、ぱたぱたと本の埃を落としている姿は堂に入っている。
「こんにちは」
 少し頭を下げると、こんにちはと返された。
 そのまま何を言うでもなく、いぬまさんは仕事に戻る。
 話しかけられても何を言ったらいいのかわからないし、仕事の邪魔をするのも嫌だから、俺にはそれがありがたい。
 適度な距離を保って接してくれるこの本屋の店員さんが、俺は好きだ(名前を覚えられなかった事は忘れて欲しい)。
 欲しいものが特になくても店に立ち寄ってしまうのはもう癖と言ってもいいだろう。
 店の空気が好きだと言うのもあるけれど、昔小さな頃に何もやることがなく暇つぶしに立ち読みに来ていたから、何もやる事がなくてもついふらふらと入ってしまうのだ。



 今日の客入りはまあまあ。
 店の中に居るのは、俺といぬまさん。それから、なにやらそわそわしている女の子に、サラリーマンがふたり。店長の姿は見えないけど、休みと言う事は殆どないから、別のところで仕事をしているんだろう。
(……あ)
 その手に握られている、プレゼントらしい小さな箱。
 これは久しぶりに現場を目撃だろうかとそんな事を俺が考えていたのだが、十分経っても新しい客が入ってくる気配はない。
 どんな奴を待っているんだろうなと思いながら、適当に俺は店の中を歩き回った。
 いぬまさんは掃除を終わらせて、何かよくわからないリストとにらめっこしながらうなったり本を抜いたりしていている。その後ろをすり抜けて文庫を眺めたりして、女の子の前を通り過ぎようとしたところで、思いもしなかった事態が発生した。

「あのっ……!」

 いきなり声をかけられたのだ。
 俺が。

 高い声に叫ばれ、辺りをきょろきょろ見回してみても該当する人物は他にない。
 俺? と首をかしげつつ自分を指差すと、こくこくとうなずかれて困った。
(まさか俺に来るとはなあ……)
 この状況は、どうみてもあの噂に縋っている女の子が告白をしようとしている図だろう。
 というか、それ以外にわざわざ俺に話しかける理由なんてないはずだ。

「えと、俺、だよね?」

 確認するために声に出して言ってみれば、こくこくと頷かれて困った。
 可愛い顔をしている女の子だけれど、正直言えばあんまり趣味ではない。
 おさげにめがね。萌っことか言われそうな丸い顔のかわいさではあるけれど、俺の趣味はもうちょっと気が強そうな子だ。気が弱そうな子だと何を言っていいのかわからなくなるから勘弁してほしい。
 っつーか、会って一発目で好きになれとか、無理がありすぎる。
「あの、あのあの、ええと。これ、あの……!」
 もらって下さい、と差し出されたのは、さっき目にした小さな小包。
 手作りのような歪な包装に覚えたのは、喜びよりも気持ち悪さだった。
(……もらって下さいって……無理あるだろ)
 女の子の事を考えれば、そんな事を考えるのは失礼だと思う。
 思うけれど、よく知りもしない女の子が自分の事を考えて作る。そんな状態を想像してみると嬉しいよりもぞっとしたのだ。
 かわいいとは思う。でもそれだけだ。
 自分の何を知っている訳でもないのに、どうして惚れたと言えるんだろう。不思議でならない。
「あ、あの……わたしずっとここで、あなたの事見かけてて。それでずっと気になってて……!」
「はぁ」
「そ、それで、よかったらお名前とか聞きたくて。あの、お話とか、してみたくて!」
 早口でまくしたててくれるそれに呆気にとられながら、突き出してくるプレゼントを俺は受け取れない。というか、あんまり受け取りたくない。
 親友が見ていたらまず真っ先に殴られているのだろうが、ここに居るのは俺ひとりだ。
 受け取りたくないものを拒否して何が悪い。……とは、思うのだが。
(……必死だなあ)
 ここまで必死になられると何かかわいそうになってくるというか、うん。
「……あ、あのええと、お付き合いしたいとか、そう言うのじゃないんです。というかそんなのいきなり言われても困ると思うので!」

 いやそれお付き合い前提のお友達からって意味じゃない?
 ちょっとそれはむりじゃないかなあ。

 必死そうな女の子を見ながらそんな事を考えて、俺はひたすら困った。
 正直言えばその場にいる誰でもいいから助けてくれないかと思う。だけどそんな事をしてくれる人はもちろん誰もおらず――あ、いぬまさんと目が合った。
(……ってそんなあからさまに目ぇそらさないでくれよ)