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からっ風と、繭の郷の子守唄 第40話~45話

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からっ風と、繭の郷の子守唄(43) 
「赤城型民家と呼ばれる古老の屋敷と、金色の糸を吐くオカイコ」

 「なんで俺は、こんなところで全力疾走しているんだろう?」

 駆け始めた坂道の途中で、あっというまに苦しさを覚える。
青ざめた顔で立ち止まった康平が、肩で大きく喘ぎながら思わずつぶやく。
昨夜から寝ていないことからくる寝不足と、中途半端に残っているアルコールが
胃の中でいっそう攪拌されていく。
吐き気に加えて、わずかな目眩さえ感じている自分が情けない。

 子供の頃なら、息ひとつ切らさずに駆けあがることが出来た。
桑の巨木から、もうひとつ先の丘陵にある徳次郎の屋敷までが、
今日に限ってやたらと遠く感じられる。
『それにしても衰えたものだな。ガキの頃の元気が、もう微塵も
残っていないなんて』
ゆっくりした足取りで、一歩ずつ歩んでくる古老の姿が背後に近づいてくる。
ガクガクと小刻みに笑い始めている自分の膝に、流れる汗を拭いながら
康平が苦笑いを浮かべる。