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からっ風と、繭の郷の子守唄 第40話~45話

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 「絶対に断る。それと別の話だが、お前、
 長老のところに出入りしている、千尋という女の子のことを知っているか?。
 京都から来たという子だ。」

 「おう。知ってるぞ。その子なら。
 黄金のカイコを育ててもらっている女の子だろう。
 何度か見たことはある。そこそこの美人だ。
 といっても、うちの美人姉妹に比べれば、足元にも及ばないがな。
 そうか。美和子をようやく諦めて、その子を嫁をもらうつもりになったか。
 ついにお前も」

 「早合点するな、そういうわけじゃない。
 ただ今回のことをきっかけに、俺たちを合わせようという思惑があるようだ。
 今の時代。見合いなんて流行らないと思うんだが」

 「最後のお節介だろう。そのうちに誰も世話してくれなくなる。
 おふくろさんだって、お前が所帯を持ってくれれば
 肩の荷が下ろせて楽になる。
 いいじゃねぇか。親孝行だと思って、普通に見合いをしてやれば」

 しかしなぁ・・・と康平がつぶやいたとき、
消防車両のひときわ甲高いサイレンの音が、下の道から響いてきた。
先着した2台の消防車両の後を追い、別の分団の車両が
追走してきた雰囲気が有る。
タバコをくわえかけた五六の表情が瞬時に固まった。
何故か顔色まで青ざめてくる。


 「あっ、やべぇなぁ・・・・あれは3分団のサイレンだ。
 まいったなぁ。女が5人もいるという分団さまのお出ましだ。
 面倒なことにならなきゃいいが、・・・・」

 眼下の道路へ、3分団の消防車両が現れた。
サイレンを鳴らしたまま坂道をこちらへ向かって全速力で駆け上がってくる。
高台に到着した消防車両の運転席から、制帽をあみだにかぶった女性隊員が、
ヒョイと顔をのぞかせる。


 「五六。朝からいったい何の騒ぎなの。
 緊急出動の通報は入っていないのに、おたくの車両がサイレンを鳴らして
 全開で疾走していくんだもの。
 朝っぱらから何事かと思うじゃないの。
 火事はどこなのさ。車が2台も停まっているからまさかここが現場という
 訳では、ないでしょうね」

 「ここが、その現場だ。
 標的は、そこにそびえている一ノ瀬の大木。
 訳があって、あの大木を狙ってポンプの訓練をする予定だ。
 悪いな。手違いがあって誤解が生じたようだ。火事じゃない。
 そういうことだから、了解したら撤収してくれ。
 俺たちの訓練の邪魔になる」

 「へぇぇ・・・・面白そうな話じゃないの。
 両方で競って先に準備が出来たほうが、放水の権利を取るっていうのは
 どうよ。
 幸いなことに今朝は、我が分団の5人の美女が全員揃うのよ。
 といっても残りの女の子は携帯で呼んでいる最中だから、嫌だというのなら
 このまま撤収するけど。どうする、五六。
 いいじゃないの。
 5人組と交流するチャンスを作ってくれと、しつこく
 言っていたじゃないの。 いい機会じゃないのさ、今回が。
 今年はポンプ操法の全国大会もあるし、願ってもない練習のチャンスです。
 ねぇぇ、やろうよぉ・・・・五六ちゃん。」

 ポンプ操法は、消防団の訓練のひとつだ。
基本的な操作を習得するための、手順練習のことをいう。
防火水槽から給水し、火点(かてん)と呼ばれる的をめがけて放水し、
撤収するまでの一連の手順を演じる。