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からっ風と、繭の郷の子守唄 第40話~45話

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 坂道を駆け上がってくる消防車両へ手を振りながら、五六が遠ざかっていく。
消防団の制服と帽子を着用した同級生の、逞しい背中姿を見送りながら康平が
古い記憶を呼び起こしている。
たしかにどこかで見たはずだ・・・錆びたまま、路上にニョキと突き立っていた
消火栓の姿が、消防ホースが格納された小さな木の箱とセットになって、
ようやく康平の脳裏へ蘇ってくる。

 火災が発生した場合。消防車両は、消火栓か防火水槽から水をくみ上げる。
消防車両へ注水しながら、水圧を調整しつつ、ホースへ水を送り、
消火作業を行う。
水そうや消火栓が近い場合はいいが、離れている場合には
ホースを何本も連結し、給水を行う必要がある。
長くなると、途中へ仮設のポンプを置く。
山間地や近くに河川や水利を持たない地域では、水道の各家庭への
普及とともに、消火栓の設置がすすめられ、
消火活動の重要な拠り所とされてきた。

 「あった」

 消火栓をようやく見つた康平が、後方を振り返る
2台目の消防車両がサイレンをけたたましく鳴らしながら、猛然と
坂道を駆け上がってくる。
まるで火災現場へ急行するような、本番さながらの疾走ぶりだ。

 「誰だ。サイレンを鳴らして運転してくるのは。
 また新兵の、イスラエルのイチローか!
 あの野郎。サイレンは鳴らさなくてもいいと、あれほど言っておいたのに。
 いざとなると舞い上がり過ぎるから、失敗をやらかしてやがる。
 おい、部長。(消防団における役職名のこと。団長・部長・会計長が団の3役)
 伝達行動が徹底していないぞ。
 部下の失態は上司の失態。だが、まぁ、あいつだけは例外か。
 日本語が通じる場合もあるし、まったく理解できないときもある。
 なにしろ出身がイスラエルだからな。
 日本語と田舎の伝統を理解するまでに、
 まだたっぷり時間がかかることだろう。
 朝鮮から農家へ来た女と、イスラエルからやって来た婿が消防団にはいる。
 うちの分団もずいぶん国際色が豊かになってきたもんだ、まったく。
 康平。これが俗に言う、時代の流れというやつだ」

 サイレンを鳴らし続けたまま、現場へ到着した2台目の消防車両の運転席へ、
部長が、凄まじい勢いですっ飛んでいく。


 「部長。あまり真剣に説教するな。
 いくら説明したところで、日本語の3分1しか理解ができない奴だ。
 怒ったところで、ろくろく意味が通じねぇ。
 イスラエルから来たイチローにはな。!
 諦めろ、あきらめろ。あっはっは」