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からっ風と、繭の郷の子守唄 第40話~45話

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 徳次郎老人の言葉を頭に中で確認しながら、康平が動噴機の
準備に取り掛かる。
荷台へ腰を下ろし、道具ひとつひとつの点検を終えてから、
タンクへ水を満たしていく。
やがて農薬の検量に、康平がこわごわと取り掛かる。

 
 「おいおい。見るからに腰が引けているぜ、康平くん。
 理科の実験を始めるわけでもあるまいし、あまり怖がるな。
 第一、手荒に扱ったところで、爆発なんかを起こしゃしないぞ、農薬は。
 それにしても見事に腰が引けている・・・・怖いのか、やっぱり。
 スミチオンと名前を聞いただけで」

 いきなり康平の目の前に、同級生の五六があらわれた。
くわえタバコのまま、スミチオンで満たされた容器を素手で横取りする。
それを小脇に抱えこむ。

 「大木を相手に、小型の動力噴霧器で立ち向かおうなんて、無茶すぎる。
 アリがおもちゃの水鉄砲を持って、アフリカ象に立ち向かうようなものだ。
 歯が立たない結果なんぞ、やる前から目に見えている。
 長老からの緊急電話が入った。
 一大事が勃発したかのかと思ったら、康平のアメヒト退治を
 手伝ってやれというという命令だ。
 長老といえば、大八車に手押しポンプを積んで火を消して回った
 消防団の大隊長だ。
 俺たちから見れば、歴史上の大先輩ということになる。
 消防において、上司と先輩からの命令には、絶対服従のおきてがある。
 命令に逆らえば、火事場が混乱を起こして収集がつかなくなる。
 すでにポンプ車と、2000リットルの容量を積んだタンク車が、
 こちらへ向かっている。
 このあたりに、消火栓か防火水槽が設置されているはずだ。
 そいつを探し出して、新兵(新入の消防団員)どもを、誘導してやってくれ」

 それだけ言うと五六が、スミチオンの容器をかかえて
軽トラックから離れていく。
眼下には、簡易郵便局のT字路を曲がり、タイヤをきしませながら
坂道を駆け上がる、1台目の真っ赤な消防車両の姿が見える。


 消防団は『消防組織法』に基づいて、各市町村に設置されている。
立場は、市町村における非常勤の特別職地方公務員という事になる。
山岳地帯や離島の一部など、常備の消防本部や消防署がない地域では、
常備消防としての役割も担っている。

 近年は女性団員が増加している。
その一方で、男性団員が減る傾向が強くなっている。
2007年の4月現在、消防団員の総数は89万人余。消防団の数は2474団を数える。

 「防火栓か、防火水槽を探せってか・・・
 そういえば、子供の頃に見た覚えがあったが、どこだったかなぁ・・・」