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レイドリフト・ドラゴンメイド 第9話 シエロの決意

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 砲撃をものともせず、飛び出してきたのは、高さも幅も4メートルほど有る、明るいオレンジ色のロボットだった。
 下半身は長さが6~7メートルあり、4つのタイヤを持っている。
 その上に人間のような上半身をのせている。
 ドラゴンドレス以上の堅牢な装甲。
 その手首には、地面に接しているのと同じ分厚いタイヤが巻かれていた。
 腕の装甲には、メイトライ5とピンクのロゴで記されている。

 変形能力を持つロボット、オーバオックスだ。可変高規格双腕重機。
 乗員は一人。
 動力は異世界の技術を使ったオリハルコンバッテリーに充電される電力。
 最高出力は600万馬力。

 名前の由来はオーバジーン・オークスン。お盆に飾られる、なすびの牛である。
 今飛び込んできたのは、前輪を機械腕に変形させた4輪駆動の双腕重機モード。
 その後に、手首についたタイヤも下した6輪駆動のSUVモードの機体が続く。
 この機体は真っ赤にぬられていた。
 後から、さらに2機飛び込んできた。
 それぞれシルバーと青に輝く、後部の4輪を2本足に変形させたロボットモード。
 腕には、同じメイトライ5のロゴ。


 オレンジのオーバオックスの前の空中で、赤い霧のようなものが次々に現れた。
 それは、次々に打ち込まれる弾丸が、一瞬にして赤熱化し、霧のように消えていくのだ。
 弾丸を霧にしたのは、次々に発射されるレーザー。
 発射装置は、ピンクのロゴが書かれた、両腕の装甲の下。
 ILSS、Interfere Laser Snipe System。
 イルスと呼ばれる、干渉レーザー狙撃システム。
 連動した3つのレーザー銃口から放たれた光を、空中で衝突させる。
 そして、光の波長が強め合う領域と弱めあう領域を作る。
 この干渉と言う現象を利用して、曲線を描くレーザーを作り出しているのだ。
 オーバオックスの太い頭に仕込まれたレーダーと連動している。
 残る3機が、その横に並んだ。
 そして同じイルスで、弾幕を遮った。

 続くのは、PP社のドラゴンマニキュア部隊の黒い影だ。
 先頭は全身黒塗りで装甲化されたパワードスーツ、マーク5。
 左手に特殊鋼やアラミド系繊維を組み合わせた分厚い盾を。
 右腕に6本の銃身を持つバルカン銃、M134ミニガンをマウントして、構えている。
 弾は背中にかついだドラム缶のような弾倉から、ベルトを通じて供給されている。

 その後ろから歩兵用防弾装備をまとい、手足と背中をフレームで強化したマーク4の装着者が4人、体を密着するようにして駆け込んだ。
 マーク4が構えるのは、RG9アサルトライフル。
 アサルトライフルと言っても、長さは1メートルに対し、幅は平均的な銃の3倍はある。
 これは、個人携行が可能なレールガンを実現させるための、バッテリーが入っているからだ。
 レールガンとは、弾丸を並行する2本のレールで挟み込み、そこに電流を流すことで電磁気力で弾丸を加速する銃だ。
 電流が起こす雷のような音とともに、マッハ5と言う恐るべき速度で、貫通力の高いタングステン弾を打ち出す。
 これを強化改造したものが、メイトライ5のオーバオックスにはイルスと並んで搭載されている。
 同じ編成のドラゴンマニキュアチームが次々に飛び出し、左右に広がる。

 だが、チェ連側も黙っているわけがない。
 ビルの鉄板で覆われた窓が開く。
 そこから、キャットウォークに人があふれだし、雨あられと火薬式大口径銃の銃声が響く!
「撃ちまくれ! 撃ちまくれ! 撃ちまくれ!! 」
 地球側も打ち返した。

 ドラゴンメイドは焦った。
 早く、一つでも多くの砲塔を破壊しないと!
 自分が奪った砲塔は、すでに弾切れだ。
 だが再装てんされてはたまらない。
 砲塔の後ろにある観音開きのドアを切り開いた。
 中にはグリスにまみれたワイヤーが張り巡らされている。
 これを引きちぎれば、砲の機能は破壊される。
 その時、彼女に内蔵されたレーダーが、ワイヤーの一本の先に記憶の中の砲塔にはなかったものを見つけた。
 対戦車ロケットの砲弾だった。
 危なかった。これを引っ張っていたら、今頃爆発していたはず。
 データリンクを使い、警告メールを―。
 ドカーン! おそかった。
 ドラゴンメイドはロケット弾のトラップをよけ、砲撃を行うワイヤーだけを引きちぎった。

 その直後、砲塔の装甲が内側にひん曲がり、部品が砕け散った!
 180キロの体重も関係なかった。
 とがった破片の嵐は彼女を吹き飛ばし、ビルの壁面にへこみを付けた。
 勢いは全く弱まらず、スクラップとなった砲塔に叩きつけられて止まった。

 ドラゴンメイドは、なんとか意識は保った。
 だが、視界がひび割れている。
 ゴーグルが割れたのだ。
 引きちぎって視界を確保する。
 そして、衝撃が来た方を見ると。

 砲塔のさらに奥、ビルの玄関が開いていた。
 その前に、残った砲塔の陰に隠れてドラゴンメイドに銃を撃つ兵士たちの姿があった。
 その内の一人がもつ対戦車ロケット砲からは、ロケット雲が伸びている。
 しかしドラゴンメイドは、武器よりもそれを持つ兵士の顔に釘付けになった。
「シエロ君……」
 それは、憤怒の表情を浮かべた少年兵。
 さっきまでともに車に乗っていた、シエロ・エピコスだった。
 もう一人の兵士とともに、ロケット砲を再装填しながら、ドラゴンメイドを指さして叫んだ。
「あいつを立ち上がらせるな! 釘付けにしろ! 」
 ドラゴンメイドは何とか立ち上がろうとした。
 だが、銃撃がそれを許さない。
 体中に小さな火花と共に、へこみができる。徹甲弾だ。
 ドラゴンメイドは立ち上がるのは止めて、身を伏せた。
 そして、右手の電磁レールを丸型から、2本の平行する物に変形させる。
 腕の中のプラズマを、まっすぐ打ち出す兵器。
 プラズマレールガン。

 その時、シエロ達が再装填を終えた。
 ドラゴンメイドは体をひねり、プレズマレールガンを弾幕に向けた。
 2発目のロケット砲が発射された。
 次の瞬間、青白く輝くプラズマが空間を満たし、その熱で弾幕は蒸発した。
 だが、ロケット砲はひときわ大きな爆発となった。
 ドラゴンメイドは再び爆風に飛ばされ、瓦礫の上を転がる。
 制服は、ぼろぼろだ。

 こんな迎撃は時間稼ぎに過ぎない。
 再び腹這いになり、時間を稼ぐことにした。
「シエロ君! あなた、私のリサイタルにも来てくれたことがあったわね! あのときは、分かりあえたと思ったんだけど? 」
 なるべく余裕を見せて。だがこれは、彼女にとってアイドルの矜持のかかった質問だ。
 それに対してシエロは怒気がこもった声を叩きつけた。
「何が分かり合えた。だ! あれは、お前たちの考えを知るために行っただけだ」
 ドラゴンメイドの視界に、警告ウインドウが現れる。
 2回の衝撃で、背中のウイングとジェットエンジンが故障した。
 砲台と外を阻む、堀の幅は約5メートル。
 ジャンプして、わずかにジェットを使えば跳べる。
 跳べなければ、180キロの体重で約3メートルの水のそこだ。
 その間、プラズマ兵器は使えない。どうする?