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突然「ごめん」と言われて、彼女は当然ながらとまどいを見せた。


「ごめんね、たきもっちゃん。高峰くんのコメントは演技なの」

「演技……？なんで？」

「たきもっちゃんがヤキモチ焼くかなって、わたしが吹っかけたの。ね？高峰くん」


俺が悪者にならないように非をぜんぶ受けようとする花田さんのサポートに、俺は首を振った。


「いや。俺が変なこと言ったから、花田さんが合わせてくれただけ。グラタン美味しかったけど、俺は由菜のが一番ーー好きだから」

「……変なことって、何を言ったの」

「えっ」


好きが違うとか、そんなこと。

まじめに言うのがこっぱずかしいことに、今さら気付く。

花田さんが気を利かせてふらっと玄関から出て行ったけど、……いや、まじか。


「高峰、なに？」

「……俺の好きと、おまえの好きはなんか違うんじゃないかって……おもいまして……ですね、はい」

「はいぃ？」


何バカなこと言ってんだというすっとんきょうな反応。

問いつめられたら答えるしかなくなる自分がうらめしい。

だって俺はずっと、女の子として滝本が好きだったのに、いつまでも男として認識されてない気がする。


「そりゃあ、違うでしょ。わたしは、高峰が好きなんだもん」

「は？ーーちょっと待て、なんか違う。俺は、結婚しても男として見られないからそう思ったのであって」

「だーかーらー！高峰はわたしのなかではジャンル「高峰」なの！男とか女とかじゃないの！」


大まじめな言い返しに、なつかしさを感じる。

そういえば、そんなこと言ってた。


「そんなの、今さらでしょ。ふつうじゃないもの。わたしたちは全部」


付き合ってたわけじゃない男女で家を行き来して生活を支え合っていたことも。

結婚までの経緯がぶっ飛んでることも。

何も知らない他人に話せば異常と思われる過去は、ここに続いている。


「でも、ずっと一緒にいたいって高峰以上に思える人がいないってだけで、もう何よりも好きってこと、わからない？」


ぽろぽろと、彼女の目にたまった涙がこぼれる。

ーー誰か俺をなぐってくれ。

ふつうの人に自分たちを当てはめようとした、バカな俺をなぐってくれ。


「うん。……わからなかった。ごめん滝本」


あやまるのも違う気がしたが、抱きしめて言葉をかけた。

俺の方がよっぽど分かってない。

ふつうじゃなくても、俺と彼女はずっと、おたがいが大切で必要なんだからーーそれで十分じゃないか。