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ギブアンドテイク【後編】

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本当はつけて働いたらダメなんですよね、と店員の彼女は笑いながら、首元のシルバーチェーンを外してそれを通した。


「昨日、もらったんですよ。でも、見せびらかせる人がここいないから……ないしょにしてくださいね」


いいのか、それ。

俺が打ち解けるより先に慣れてしまったらしい彼女は、友達に対するように俺に言った。

ゆるい人だな。


「言いませんよ。……あの、その相手は、やっぱりずっと付き合ってた人ですか」

「まあ、うん、そうですね。彼の仕事柄、わたしと付き合ってたのか誰と付き合ってたのか分からないくらい、怪しかったですけど」

「へえ」


自分の中にある気がかりを、遠回しに聞いてみたら、わりと突っ込んだ話にも関わらずあっさり答えが返ってきた。


「あげたいのは、お付き合いされてない方ですか?」

「……」

「でも、あなたはその人以外考えられない、とか、そんなところですかね。なら、話は早いじゃないですか」


俺の心を読んだような的確な返球に、何も言えない。

初対面の女性に、つっこんだ質問したのが悪いのだが。

彼女はやはり、こちらの気を悪くさせることのないさっぱりとした物言いで、本当に友人のようにアドバイスをくれる。


「うまくいってもいかなくても、自分の気持ちだけでブレーキをかけて何も行動しないでいるのは、人生の損ですよ。言わないと、何も始まりませんから」


ダメ押しに、彼女の胸元に収まったダイヤの婚約指輪がキラリと光る。

ーー結局は彼女の口車に乗せられたのかもしれないが、それでも構わなかった。

彼女の言葉は、俺の背中を押してくれたから。