ギブアンドテイク【前編】
その週末、あとひと月で異動の俺は、やっと彼女に会うことが出来た。
「ごめんねー。掃除する暇もなくて」
「暇があったところで掃除出来ないだろ、おまえは」
「はっはっはっ」
いつもどおりの彼女はやや疲れた様子だけど、久しぶりに台所に立てることでうきうきしていた。
その辺に散らかったコンビニ弁当の箱やカップラーメンの容器から、まともな食生活でないのはかんたんに想像できる。
料理すら久しぶりなんだろう。
「高峰、ちゃんとご飯食べてんの?」
「まあ、社食あるし。たまに忘れるくらいで」
「えー!ちゃんと三食とりなさい!」
いや、だって社食のレパートリーにはとっくに飽きたし。
学生時代に肥えた舌では、ご飯を楽しみにすることも出来ない。
いや、今は信じられないくらい空腹だけど。
「滝本こそ、ちゃんと食べてんのか。こんなにコンビニ弁当とカップラーメンのゴミが転がってちゃ説得力皆無だぞ」
「わたしも社食あるし、晩ごはんだけたまに家で食べるけど、疲れてたら作る気にもならないもん」
「ああ言えばこう言う」
うるさいなーもう、と怒りながら、彼女は楽しそうだ。
俺も慣れた感じに荒れた部屋を掃除しながら、2週間ぶりの会話にほおが緩む。
しかし、食器はほぼ使ってないが洗濯物は溜まりまくってるな。
「あと30分くらいで出来るよ」
「洗濯するわ」
作品名:ギブアンドテイク【前編】 作家名:かずさ