命の炎が燃えるとき
ミユキはぼんやりと外を眺めた。いつもと変わらぬ、風景である。秋の濾されたような澄んだ日が庭に降り注いでいる。
「部屋の中へ、どうぞ」
看護婦に案内された部屋に入ると、そこに医師が残念そうに立っていた。医師は予め用意したかのように、シンイチが死にいたる過程を話した。ミユキはまるで、劇でも観ているかのように実感が湧かなかった。
「どうも有り難うございました」と儀礼的に礼を述べた。
医師は「とても残念でした」と述べ、看護婦とともに部屋を出た。
ミユキは一人、部屋に残された。
ミユキは、悪い冗談が起こって、自分は完全に騙されているのではないかと思い、ベッドの上で動かないシンイチの体に触れた。冷たい。人間の肉体とは思えないほどの冷たい。ミユキは深い悲しみに襲われた。涙が止めどうもなく流れてきた。その涙を抑える術は無かった。
しばらくして窓の外に目をやると、迫る山並みが炎のように色づいていたのに気づいた。ミユキはシンイチが『命は、死ぬ間際、その残った力を絞るように燃え上がらせる。たとえば、秋の紅葉にように。僕はまだ燃え上がらせることなく死ぬ。それが悲しい』と言ったのを思い出した。単なる偶然だろうか、まるで命が燃え上がるような美しい光景が広がっている。それはシンイチが命の炎を激しく燃えているように思えてならなかった。