キミをわすれないよ
早くあの場所に行きたかった。
ケイと出逢ったあの店に とにかく急いだ。
「ケイ、大丈夫だよ。きっとなんとかなるさ。だって不思議なんて もうとっくに驚かないからね。大丈夫だよ……」
暗い帰り道。
あの店のところに車を飛ばし、たぶん此処だろう思う店の前に立った。やっぱり扉の木枠は朽ちて傾き、外れていた。ペンキは剥げ落ち、元はどんな色だったのかもわからないほど擦れていた。何とか蝶つがいで支えられてはいたはずだった扉の一部が欠落していた。
「これって…」
僕の背中が寒くなった。もちろん寒い外気には違いないが、その為の防寒コートは着ている。この寒さは、なにか後悔を感じた時の冷やかさに思えた。
僕は、胸のポケットからケイを出した。
ケイの姿は、二枚の板切れが蝶つがいで繋がっていた。僕は、触れたら落ちてしまいそうなほど傷んでいる扉に近づくと、その欠落した部分に添わしてみた。
「なんてことだ……」
『ねえ、仲良しだよね。大好きだよね。ずっと……』
そんな声がした。 空耳とは信じたくない。
朽ちた家屋に吹き込んだ風の悪戯なのかもしれない。
「僕は……」
まだ僕にはその意味を理解するほど 冷静にはなれていなかった。
握りしめた板切れの蝶つがいがコンクリートの上に落ちて、音を響かせた。
そして 僕はやっと呟けたよ。
「ケイ、忘れないよ」
― 了 ―