偉そうなアボガドさんのお引っ越し。
『ここのあいちゃん畑はプランターの中で過ごす。肥料も気が向いた時にしかあげない。まっ、忍耐だわなっ!!お母さん畑は、本物の畑がある。そこには肥料もたっぷりある。でも、お母さんは冷たい。たぶん話しかけてもくれないと思う。…さあ、どっち?!』
と二択を与えた。
悩むアボガド…。
生まれてまだ人間で言うと赤ちゃんくらいなのだろうけど、人生の選択肢を与えられて悩んでいる。
早い内から人生を選択して行くのも良い経験なのかもしれない。
アボガドは悩みながら、
『あいちゃんは肥料をくれないし…。』
と独り言のように言っているので、
『お母さん畑は肥料だらけで…。』
と言い終わらない内に、
『お母さん畑っ!!』
と私を遮り、人生の選択にそう答えを出した。
ということで、二号さんもお母さん畑にお引っ越しとなった。
お引っ越しするまで、後一、二ヶ月。
それまでに偉そうなアボガドに雨の練習をと思い、風が強かろうが大雨が降ろうがベランダに置きっ放しにすることにした。
そんな私に偉そうな物言いではなく、
『頑張る…。耐える…。』
と弱気に偉そうなアボガドは答えた。
私は心を鬼にして、
『自分から引っ越すと言い出したので、当たり前っ!!』
と言って肯き、窓をピシャリと閉めた。
ある日、雨が続く毎日に落ち込んでるんじゃ…と思いそっと見に行ったら、
『バリッと!!』
とピーンと立てた葉っぱを見せ付けられた。
しかも微妙に成長してる…。
熱帯の植物だからか…と敗北感を感じる私。
そして、二号さんからついに、
『ん~…、そろそろ植え替えて欲しい…。』
と注文が来た。
マジかぁ~とショックを受けた…。
偉そうじゃなかったはずなのに…、偉そうなアボガドと同じ道を辿りそうな気配…。
それから天気の良い日に植え替えをしてあげた。
丁度いいプランターがなかったので、牛乳パックへと小さなお引っ越し。
でも初めての土なので本人にとっては大きなお引っ越しかもしれない。
土に植え替えた後、
『どうですか~?!』
と聞いてみた。
『…土。』
と嬉し恥ずかしそうに答えた。
その後に、偉そうなアボガドに水をあげていたら、偉そうなアボガドが二号さんに、
『こうやってするんだよ~。』
と何かを教えていた。
そんな態度に私は、“へぇ~、優しいところもあるんだなぁ~。”と感じていたら、
『うるせぇ~。』
と偉そうな方に即突っ込まれた。
やっぱり私には冷たい。
褒めるのとか一切止めようと思う瞬間がこんな感じ。
家の中にいる時も、古株のポトスよりも偉そうだった。
それでも、私がすることなく代わりにしてくれてるならこっちが楽出来るというもの。
なんやかんやで、面倒見が良くて良かった。
二号さんにもお水を上からかけて練習。
『気持ちがいい~。』
と穏やかな瞬間。
…しかし、上からかけて土にもかけて、他の野菜たちにも水をかけて回って終わろうとしたら、
『あっ、あいちゃん、もう一回かけて。葉っぱからねっ!!』
と身長三十センチもないヤツに使われ始めた…。
ついつい私も条件反射で、
『あっ、はいはい。』
とあげてしまう。
気付いた時には水をあげている。
…まさか、こんな事まで偉そうな方は教えてるんじゃないかと疑い、偉そうな方を睨む私。
大体バツが悪いと黙るから、余計に用意周到に企んでるんじゃないかともっと疑う。
何も言わない。
こんな事が引っ越すまで続いた。
どんどん成長するに連れて二号さんが偉そうになって行った。
そして私は決めた。
もう二度とアボガドなんて育てない!!
アボガドだけは育てるのを止める!!…と。
家の中に、こんなにも口の悪い植物がいるなんてやってられない。
だから引っ越すというのはあながち間違えじゃなかったんだ!!
なんかいろいろとあるけど…、功を奏したのかも。
ついに、お引っ越しの日が来た。
水が漏れないように、二人ともゴミ袋に包まれた。
ゴミみたいで哀れだ。
たまにはこんな姿も良いと思う。
包まれて、玄関に運ばれ始めると何故か静かになって、口答えもなくなって、真面目な返事が返って来た。
車なんて乗った事がないから緊張でもしてるのかなぁ~なんて思いながら、言い合いをすることなくこっちとしてはありがたかった。
いざ車に乗せてみたら、ちょっと背が高くなり過ぎたのか、天井に新芽がぶつかり少し首を傾げた状態となった。
そんな姿に私は、
『文句なしっ!!我慢するっ!!』
と言った。
偉そうなアボガドは素直に、
『はい、我慢する…。でも、なるべく早くお母さん畑に着いて。』
と一言余計はあったけど、首が曲がったまんまそう答えた。
そのまま首が傾げた状態で千キロ以上を移動する事となった。
二号さんは牛乳パックに入ったまま小さいので、何処にでも置けた。
なので椅子の後ろの空いていた暗いスペースに置いた。
一言、
『狭い…。』
と聞こえたけど、
『我慢っ!!』
と言い聞かせた。
そしてアボガド二人を乗せて長い旅が始まった。
私の椅子の後ろに二号さんがいる事も忘れて、何度も椅子を倒してしまった。
どうして気付いたかというと、小さな声で、
『潰れる…。』
とある時に聞こえたから。
初めは分からなかったけど、閃くように気付いたその瞬間、サッと椅子を元に戻し後ろを覗いてみた。
しかし覗き込めない…。
ということで、次のパーキングまで待ってもらった。
車から降りて、どのくらいまで椅子を倒して大丈夫かの実験をした。
結構大丈夫だった。
倒すことが悪かった訳ではなくて、その時に葉っぱが擦れてしまう危険性があったという事だった。
なので、葉っぱの位置を変えてもう一度出発となった。
その時点で結構進んでたけど…。
偉そうなアボガドは首が傾げているので、一度だけ、
『向きを変えて。だんだんと曲がって行きそう…。』
と弱々しく言われた。
その事もあり、何度か向きを変えてあげた。
そして一日近くかけてお母さんの家に到着となった。
すぐに偉そうなアボガドを降ろしてあげた。
新芽は曲がってはなかった。
それよりも一日ぶりに空気に触れて気持ちよさそうにしていた。
二号さんは兎に角窮屈だったと言わんばかりの態度だった。
この経験のせいで、二号さんの方が性格悪くならなきゃ良いけど…なんて思う。
でもまあ、お母さんがこれからは面倒を見るんだから、こっちには関係ないけど~と思う私。
さすがに疲れたこの日は水をあげるだけで終わった。
物凄い勢いでお水を飲んでたようで、私からの会話に無反応だった。
結局、植え替えをしたのはそれから三日後だった。
毎日、アボガドたちの前を通り過ぎる度に、
『あいちゃん植え替えはまだ?!』
と言われていた。
『はぁ~、まだ。お母さん畑を見て感じてて。あいちゃんは長旅で疲れたの。』
と言ってはなかなかしなかった。
それと、何処に植えてあげるかを考えてもいた。
そしてお母さんと話し合った結果、植える場所を決めて遂に植え替えの日となった。
草がボーボーだったので、先ずは草取りからとなった。
私の兄の子ども二人が遊びに来ていたので、私の草取りのマネをし始めた。
作品名:偉そうなアボガドさんのお引っ越し。 作家名:きんぎょ日和