偉そうなアボガドさんのお引っ越し。
でもまあ、考えてみると、暑さが近付くと外に出たいと言っていたのだから、外の方が好きなのかもと自ずと分かれない私も問題なのかもしれない。
冬はそう毎日水をあげるでもなく、適当にしていた。
それでもアボガドの身長はゆっくりと伸びて行く。
三十センチ、四十センチと伸びて行く。
六十センチほどになったアボガドさんは、どんどん口も悪くなって行った。
また夏が来て、外に出していたら、洗濯物を干している私に、
『喉乾いた~。葉っぱに掛けて~。』
と言うようになった。
『まだ、洗濯物を干してるからこれが終わったら、水やりをします。』
と私はアボガドを直視してそう心の声を伝える。
『はいは~い。あいちゃん、起きるの遅いよ~。』
と要らぬ一言も付け加えてくる有り様だ。
暑い中、汗ダラダラの中、そこにほぼ毎日、余計な一言が届く。
そして、土に水をあげていると、
『あっ、先ずは葉っぱから!!出来れば葉っぱの裏側も。』
と注文が多い~っ!!
『他の野菜もいるの。アボガドだけじゃない!!』
と私の気持ちを伝えると、他の野菜が、
『あっ、こっちは後からで大丈夫です。先にアボガドさんにあげてください。』
と優しいお言葉を届けてくれる。
そんな野菜たちに私は会釈して、
『みんなは優しいのに、一人偉そうにしやがって~っ!!』
とアボガドに怒鳴る。
しかし当のアボガドは、
『みんながいいって言ってくれてるんだから、いいじゃねぇかよ~。』
とますます口が悪くなる。
ジョロの水を汲みに行って、ジョロの中に水が残ると、
『あっ、水が残ってるんなら、葉っぱに掛けてくれよ。その後、土にもよろしくな!!』
と必ず言う。
だんだんと、思って来た事がある。
植物にオスメスはないと思うけど、こいつはオッサンなんじゃないかと…。
どうしてこんなにも口が悪いのかともっともっと考えてみた。
私が行き着いた憶測は、そのアボガドの農園の人が女好きのオッサンで、女の人を両手にはべらかしているということ。
そう思えて仕方がなかった。
そしてそんな偉そうな態度が続くと、またしても私の何かが切れた。
そんな次の日から、
『先にこっちに水くれよ~。』
と聞こえても無視。
据わった目でアボガドを見ながら、アボガドから一番遠くの野菜に水をあげ始めた。
ジョロの水が減って行くのを感じ取ったアボガドは、
『あっ、足りなくなる…。』
と必死な気持ちを抑えられない。
水はまた汲みに行けばまだまだあるのに、器の小さいアボガドだこと…と思いながら目は据わっている。
そんな状況に他の野菜たちが、
『アボガドさんに先にあげてください。私たちは後でいいので…。』
と言う。
そんな思いにも私は応えず、
『いいえ、大丈夫です。あいつは最後でいい。』
と冷たく答えた。
野菜たちからため息が聞こえた。
残った水をアボガドに与えて、
『はい、お水は少ししかありません。たまには葉っぱのお水が足りない時もあるわなぁ~。辛抱辛抱。』
ととことん冷たい私。
『汲みに行けばあるかと…。』
と言うアボガド。
『んっ?!…節約。家は厳しいよぉ~。』
とあしらう私。
そんな事を繰り返しているとアボガドも小さくなる。
そこでやっと私は良いと肯く。
そんなアボガドをフェイスブックに載せた。
仲良くなった人たちが、アボガドさんに話しかけてくれる。
みんな直接アボガドさんに会ったことはないのに、コメントを通じてアボガドさんと会話してくれる。
私よりみんなの方がアボガドさんに愛されてる…。
そんなもんなのかなぁ~と思いながら、みんなとの仲介をする私。
なにはともあれ、仲よき事はいい事だ…ということにしよう。
それよりも誰から話しかけられても偉そうになる事も知った。
そんなアボガドが急に、
『お母さん畑に行きたい。』
と言い出した。
私はアボガドに、
『何故っ?!』
と問いかけた。
『実を付けたいから…。』
と普段とは別人な答え。
たまには良い奴かも…と思う私。
でも、ここで気を緩めたら付け込まれてしまうので、用心しながら相手の反応を見る。
引っ越すのはいいけど…、どうやって連れて行くか…。
…考えは一つ、車で運ぶしかない。
距離にして千キロ以上…。
久しぶりに、長旅も良いか…と思いながら引っ越しに向けることにした。
もちろんお母さんに許可も取らないと~。
早速、お母さんに電話。
開口一番、
『アボガドさんが、お母さん畑にお引っ越ししたいって言い出した。いい?!』
と聞いた。
『えーっ?!えーっ?!』
と言うお母さんは、状況に追い付けない感じ。
もう一度お母さんに伝えた。
理解したようで、
『う~ん、そりゃ~いいけど、…来る~?!』
とあまり気乗りがしなさそうだ。
そんな会話にアボガドが参加して来た。
『お母さん、アボガドが、“実を付けたいので、お母さん畑に行きたいです。”だって。』
と伝えるとお母さんの態度が一変して、
『お母さん、アボガド大好きだから、実を付けてくださ~い!!いつでもお母さん畑に来ていいですよ~。』
と調子の良いお母さんになった。
そして引っ越しを進めてもいいようになったので、偉そうなアボガドもいなくなると分かったら、閃いた考えは、偉そうじゃないアボガドさんを今度は育てる。
次は、優しく静かなアボガドさんを育てよう~。
そう決めた私は、スーパーでアボガドを買い、サラダで食べて、その種を乾かした。
真夏だったから、根っこが出て来るのも早かったし芽が出始めるのも早かった。
偉そうなアボガドよりも成長が早かった。
なんだか良い子かも…と勝手に思い込む自分…。
キッチンの窓の所に置いて育てた。
キッチンにいる時はいつも見ていた。
偉そうなアボガドと違って、黙って育つ。
そうそう、これでいいのよ、これで…。
と私は肯きながら見つめていた。
偉そうなアボガドは小さな芽が出たうちから喋っていた。
でも二号さんは喋らない…。
話しかけてみても何も言わない。
まだ話せないのか、それとも本当に静かなアボガドなのか…。
まだまだ分からなかった。
二葉が出て来てもうんともすんとも言わない。
あらら…、喋らないパターンか…、こういうこともあるか…とそのまま見つめるだけだった。
四葉が出て来て、身長が二十センチを超えてきた頃、もう一度声をかけた。
『もしもし、アボガドさん。』
しばし待つ私。
『・・・。』
何もなし。
もう一度、
『お話出来ますか~?!』
と声をかける。
『・・・。』
反応なし。
しょうがない、こういうパターンもあるか…と受け入れる。
お母さん畑に行きたいかどうかを念のため聞こうと思っていたけれど、反応がないのなら仕方がない。
『何も聞こえないから、お母さん畑にお引っ越しもどうしたいか分からないね。』
と反応がないのを分かった上で話しかけてみた。
やっぱり何も言わないのでアボガドから目を逸らしたら、
『行きたい…。』
と小さな声が聞こえた。
耳を疑った私は逸らした目をアボガドに戻した。
そして、
『喋った…。お母さん畑行く?!』
と疑いながら聞いてみた。
『ん~…、どうしよう…。でも、行きたい…。』
とどっちつかずな答え。
アボガドの思いを汲み取り、
作品名:偉そうなアボガドさんのお引っ越し。 作家名:きんぎょ日和