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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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偉そうなアボガドさんのお引っ越し。

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私はアボガドが好きなので、たまにスーパーで買って来る。
でも毎回毎回思っていた事は、
“この大きな種を捨てるのはもったいないなぁ~。”
だった。
でもそれが育てられるものだと知らなかった私は、種から育てられると知るまでもったいないと思いながら捨てていた。
ある時、テレビだったかネットだったか忘れたけど、その種を育てる事が出来て、しかも日本でもアボガドの実がなると知った。
それから、またアボガドを買って来た時に種の事をネットで調べた。
数日乾かしてから周りの皮を剥がし、種の半分ほど水に浸しておけば、一ヶ月ほどで根っこが出て来て芽が出て来るとあった。
早速やってみた。
寒い時期に始めたからか、根っこは出て来たけど、なかなか芽は出てくれなかった。
アボガドが真っ二つに割れてやっと五ミリほどの芽が出て来た。
そこからどんどん伸びると思ったら、また足踏み状態で一、二ヶ月そのままだった。
失敗したと思った私は、抜いてしまおうと思い手を伸ばした。
そんな私に慌てて上(神様)が出て来て、
『ちょっ、ちょっ、ちょっと待ってください。アボガドさんは、生きてると思いますよ。』
と言って来た。
『そんなこと言っても芽が伸びないので抜きます。』
と私はやっぱり抜こうと手を伸ばした。
すかさず上が、
『ちょっ、ちょっと待ってください。では、私はまだ生きていると思うので、後一ヶ月だけ待ってください。それでも伸びなかったら抜いてください。』
と案を出して来た。
私が好きにして良いはずなのに、おかしいと思いながらも何故かその案を受け入れ、
『分かった。もし、このままだったら捨てる!!これで良いよね?!文句なし!!』
と言って、すぐにカレンダーを見て一ヶ月後を覚えた。
今思うとカレンダーに書き込めば良かったと後悔…。
そうすれば覚え続けなくても良かっただろうに…。

とは言っても、足踏み状態だった芽が数週間もしない内に伸び始めた。
“してやられたぁ~。お主やりよるなぁ~。”
と上に言ってみたものの、カレンダーに書いてなくて良かったと思うところもあった。
そんな私に上は、“どうよ!!”と言わんばかりの顔を見せた。
その顔も憎たらしい~と思いながらも、“やられたぁ~。”という気持ちが心地よく心を過る。
そんな気持ちも上には知られてしまうから隠すに隠せない。

そんなこんなで、種を抜かずに済んだ。

芽の長さが二、三センチくらいになった頃、どんな感触なのかどうしても触りたくてそっと手を伸ばしたら、
『触らないでっ!!折れるっ!!』
とアボガドに言われた。
赤ちゃんのような小さな子どものような声なのに、偉そうだった…。
今思えばその頃からすでに偉そうだったようだ。
それでも触りたい気持ちを抑え切れず、
『優しく触るから…。そーっと、そーっと触るから折れません。大丈夫です。』
と私は手を伸ばしながらアボガドに許可をもらえる気持ちで伝えた。
でもそんなに甘くはなかった。
『止めて!!折・れ・るっ!!』
と強めに言われた。
ちょっとしか存在していないくせに、心を折られる私…。
どうしたら触らせてもらえるか考えた。
『ちょっと、ちょーっとだけ新芽の所を触る。軽ーく触る。危なかったら危ないって言って。』
と私も相手の様子を見ながら良い案だと思った。
アボガドはちょっと考え、
『ん~…、ちょっとだけだからね。力を入れないでね。』
と渋々承諾してくれた。
やったっ!!とガッツポーズをする私。
でもアボガドの気持ちは緊張したままだった。
数ミリの新芽の部分をそーっと指先で撫でるように触れた。
『柔らか~い。かわいい~。』
と新芽に浸っていた。
その間も嬉しくなさそうに気を張っているアボガドさん。
そして摘むように小さな新芽を触ろうとしたら、
『止めてーっ!!枯れるーっ!!あいちゃん(仮名;私)の温度で枯れるーっ!!はい、おしまい。』
と強制的に止めさせられた。
またも触ろうとしようものなら、早口でダメな理由をまくし立てて来た。
私もとうとう諦めた。
この時少し、怖いアボガドだなぁと思った。
そんな事があったおかげで、横を通る時チラッと見るだけで、話しかけたりはしなかった。

芽の高さが五センチくらいになった時、数ミリほどの幅をした茎を触りたくなった。
アボガドも気を抜いていたようで、久しぶりに触れた私はしばらく触っていた。
ボーッとしていたアボガドが、
『折れるーっ!!』
と慌てて言った。
不意を突いたわけじゃないのに、不意を突いてきたように勝手に思われた…。
この事でもっとアボガドとの溝が出来たように感じた。
またも距離が出来た。
水をあげるだけのような距離感になって行った。
もちろん無言で…。

春になって、だんだんと暖かくなり始めたからなのか、それ以来順調に伸びて行った。
成長とは関係ないとは思うけど、あまり仲良くはなかった。
夏が近付き暑さを感じていたのだろうかアボガドが、
『外に出て太陽を浴びたい。』
なんて言い出した。
通りすがりの私にふと聞こえて来たもんだから、空耳かと思ってやり過ごしていた。
それが毎日何回も聞こえて来るとどうもそれは空耳ではなくアボガドからの訴えだった。
自分で歩いて行けばいいのに…なんて冷たくあしらいたくもなるが、根っこしかないし歩けないのも分かっている。
『あ~、重たい。自分で行けばいいのになぁ~。』
なんてグチグチ浴びせながらベランダへと小さなお引っ越しをしてあげた。
太陽を浴びるや否や、
『気持ちがいい~。』
と全ての葉っぱで…とは言っても、小さな葉っぱが五、六枚ほどの面積に当たる太陽を受け止めていた。
ベランダへのお引っ越し中は、ジョロで上から雨のように毎日水を降らせていた。
そんな時は素直に、
『お水、気持ちがいい~。』
と言う。
ちゃちゃっと掛けて済ませようものなら、
『あっ、この辺、この辺に足りない。ここにもしっかり掛けて。』
と私を扱(こ)き使う。
意地でもあげたくないのに、体がその言葉に従ってしまう。
なんて弱いんだ自分…と落ち込む。
そんな事が続くと、いよいよ私はキレる。
『あっ、あいちゃん、ここに足りないよ~。もう一回上から掛けて~。』
と当たり前にアボガドは言って来た。
私の中の何かが切れた音がした。
『いつもいつも扱き使いやがって~っ!!たまには我慢するっ!!今日は水少なめっ!!文句なしっ!!以上っ!!』
私はアボガドの有無を言わせなかった。
アボガドは驚いて固まってしまった。
そんな一悶着があると、しばらくはアボガドからの声も聞こえないし、聞こえたとしても無視をする。
そして睨みつけながら水をあげる。
アボガドは何も言ってこない。
私の恐ろしさを思い知るがよいと思いながら水をあげる。

そんなこんなな夏が過ぎ、寒さが渡って来始めると家の中へとアボガドはまた小さなお引っ越しとなる。
家の中に入って最初の一言は何と言うだろうかと耳を傾ける。
『あ~、お外楽しかった。』
そう来たかぁ~と思う私。
思い通りの返しはなかなかないなぁ~。
“久しぶりのお家嬉しい。”
とか、
“あ~、やっとお家の中~。”
とか、家の中の生活を喜ぶもんだと思っていた。