星屑サンタ
やっと正気を取り戻したような男は私に気がついたようだ。
「あっ、すいません。ちゃんと片付けて帰りますので」
その紳士的な物の言い方に、私は何故に彼がそのようなことをしているのか興味を持った。
「どうして、そんなものこんなとこで燃やしているんですか?」
彼は最愛の妻をつい最近、亡くしたことを告白した。そして、家で一人クリスマスを祝っていたが、どうしようもなくたまらくなって全ての飾りを剥ぎ取るように車に積み込み、この丘に来たそうだ。
そして消火器持参でと、笑って話してくれた彼の目にはもう涙はなかった。
「天国に届くようにツリーを燃やされたんですか・・・」
「いやいや、お恥ずかしい。衝動的に寂しくなって、この有り様ですわ」
彼は自分の行為に頭を掻いて照れていた。
「あなたは?」今度は逆に質問された。
淋しいクリスマスで突然気が向いたからだということを告白した。
彼の前で素直に「淋しい」という言葉をすんなり言えたのは、彼も同じ境遇だと思ったのだろう。
「さみしさって 誰かがそばにいないことですよね・・・」と彼は空に舞う火の粉を見ながら言った。
私はその言葉を頭の中で反芻した。
そばにいないってこととはどういうことか?
家庭を持っているが私は一人だ。
帰っても誰も待っててはくれない私はあきらかに一人だ。誰もそばにいない。
「毎日を大事にしてます?」男から覗きこむように質問された私は、こころの中まで覗きこまれたようで、明るく燃えるツリーから一歩後ずさった。
「誰かがそばにいらっしゃるなら、すべてを許すくらいに愛したほうがいいですよ」
妻を亡くした彼の言葉は聖書のようにも聞こえて、身を固くした。
「説教みたいですいません」フッと緊張感を和らげるような彼の言葉に私も自分を取り戻せた。
「いえ、なんだか出来そうにもないけど、それもいいかもですね。この時期、クリスマスって「愛」を考えちゃいますよね。普段はこれっぽっちも考えないんですけど・・。私、スーパーでケーキを売ってるただの主婦だから、明日は残さないように売らなくちゃとか、なんだか仕事のことばかり。そうですね・・・愛とか・・いい言葉ですよね」
私は素直に彼の前では愛ということについて語ることが出来た。
「愛」とか、普段は照れて言えないのに。
「なんだか思いもかけない夜で、ちょっと楽しかったですわ。失礼しました。このへんで帰ります・・・あっ、火の用心ですよ」私は笑いながら彼に言った。
「安心してください。ちゃんと消して後片付けして帰りますから」そう言うと彼は持参の消火器を見せて笑った。
私はまだ燃え残る、少し暗くなった彼の炎をバックミラーで見つめ、丘を後にした。
静まり返った家は期待に反して、現実的にそこにあった。
やっぱり一人・・・これが現実なんだ・・・。