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からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

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からっ風と、繭の郷の子守唄(38)
「何があろうとも愛はまっすぐ、常に正面を見つめて」

 「工業高校の機械科を卒業したはずのあなたが、なんで突然、畑違いの
 呑竜マーケットで居酒屋さんをしている訳?。
 偶然立ち寄ったらあなたがいたので、腰が抜けそうなほど、
 びっくりしたもの」

 「ひょんなことからそうなった。きっかけは、高校3年の秋だ。
 夏休みが終わると、部活を卒業する。
 暇ができるが、そいつを持て余すようになる。
 お袋が、暇が有るのなら仕事を手伝えと言い出した。
 出来たての野菜を、蕎麦屋へ毎日届けてくれと言い出した。
 それがさっきまで居た俊彦さんの店だ。
 『六連星(むつらぼし)』という、しゃれた名前の蕎麦屋だ。
 野菜を運ぶといったって、せいぜいコンテナひとつ。
 バイクの後ろに、充分に乗る。
 毎日のように野菜を届け、俊彦さんと仲良くなった頃だ。
 俺の蕎麦を食って行けという話になった。
 何げなく出された蕎麦と、野菜の天ぷらが、ものすごく旨かった。
 だし汁も、カツオと昆布の風味が効いていて、すっきりしていて最高だった。
 天ぷらの揚げ具合も、完璧だった。
 シャキッとした衣の歯ごたえに、野菜の味と風味が生きていた。
 素直に旨いとこれは絶賛したら、
 『お前さんこそ、いい舌と感性を持っている』と褒められた。
 それからだ。機械工場の就職を勝手に断って、トシさんの蕎麦屋へ、
 毎日のように入り浸るようになった。
 お袋もさすがに呆れてはいた。
 それでも何一つ言わず、俺の自由にさせてくれた。
 2年後に君が東京から戻ってきて、西の端の安中市に居た頃は、
 俺は東の端で、和食の修行に明け暮れていたことになる。
 群馬県の、西と東に離れ離れだ。
 縁がないのかな。やっぱり、俺たちは」