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からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

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 二人を尻目に、辻ママがあたふたと厨房へ消えていく
ようやく邪魔者が消えたというのに、康平と美和子の間で会話がはじまらない。
先に美和子が焦れる。徳利でカチンと康平のグラスを鳴らす。
不服そうな眼差しを見せたまま、じっと康平の顔を見つめる。

 「何も聞かないのね、あなたは。
 2年で東京から帰ってきたというのに、生まれ育った地元へ戻らず、
 正反対の安中市へ行くのは、どう言う意味なのかくらい尋ねてくれても
 いいでしょう?
 それとも、人妻になってしまった私の生き方に興味がもてないのかしら。
 あなたという人は・・・・」

 美和子の瞳の端に、光るものが潜んでいる。
まったく気がつかないふりをして、康平が残っ酒を無言で空ける。
クスンと鼻を鳴らした美和子が、渋々と空いたグラスへ酒を注いでいく。
注がれ始めた酒がグラスの半分も満たさないうちに、途中で途切れてしまう。

 「あらっ。途中でお酒が終わっちゃった。
 うふふ、まるで私たちを象徴しているみたいです!これって」

 「おいっ!。縁起でもないことを言うな」

 「うふふ。・・・・
 やっと反応してくれましたねぇ、康平くん。
 なぜ結婚することになったのかだけは、絶対に喋りません。
 野暮はやめましょう。それを聞いたら、あなたに不満が残ります。
 それ以外のことなら、なんでも聞いてください。
 ママが送ってくれるはずの時間まで、まだ一時間近くも残っています。
 他人同士みたいな顔をして、こんな風に冷たく過ごすつもりなの。あなたは。
 それじゃ寂しすぎるでしょう、もと恋人同士なのに。わたしたちは・・・」

 「もともと他人同士だろう。俺たちは・・・」

 「そうよねぇ。
 ボタンの掛け違いから、気がついたらいつのまにお互いに別の道です。
 10年も経てば、どうにもならない既成事実と現実ばかりが積み重なります。
 逆戻りすることは出来ないし、
 もうこの先ず~と、このままなんだろうか、あたしたち・・・」