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からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

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 「あら、素敵なお話しですねぇ!。
 ママのお誕生日に、年齢分の花束をプレゼントするなんて、
 なかなかやるじゃないの。このオジサマ達も」

 美和子が自分のことのように、目を輝かせて喜ぶ。
「感謝を表すお花といえば、風鈴草やツリガネニンジン ツリガネソウ、
トトキ、ポピー、ダリアに、フリージア、カスミソウなんかが、
それに当たります。
これだけ集めれば、女性が喜びそうな花束にきっとなります」
そうですよねぇママと、美和子が嬉しそうな目をママに向ける。

 「よろこびましたよ。もらった当人も。それこそ有頂天の気分でした」
 
 でもちょっと待ってねぇ、といいながら自分の胸元を覗き込む。
何か、探し物でもしているのだろうか?
ママが少し大きめに自分の胸元を開ける。


 「あら、大変です。肌身をはなさずに身につけているものだから、
 若干汗ばんでいますねぇ!うふふ」

 明るい声をあげながら、透明のカードケースに収まっている一枚の写真を
『よっこらしょ』と、胸元から取り出す。
岡本と俊彦に挟まれて、大きな花束をかかえこんだ辻ママがそこに映っている。
満面の笑みが、ママの嬉しさを見事に証明している。

 「これは私の一番の、記念すべき宝物。
 大きな花束は、どれもすべて感謝と言う意味を持つ花たちでした。
 多めのかすみ草。ばらとカーネーションを主体に、
 フリージアとベルフラワー。
 とっても綺麗で、上品な花束でした。
 『アマ』というお花もたくさん入っていました。
 アマには「あなたの親切に感謝します」という花言葉が有るそうです。
 綺麗な花束だけでなく、竹で編まれた器もお洒落でした。
 でもね。それ以上に、この二人がチャーミングだったの。
 『必死で君の年齢を調べてきた。たぶんその通りだと思う花束を
 用意してきたが、間違いがないかどうか、
 確認のために花の数を数えてくれ」と言うの。
 いぶかりながらも、数えてみたっわ
 でもね。何度数えても50本で、私の年齢に3本足りないの。
 おかしいわねぇと首をかしげていたら、
 『実は、プレゼントがもう一つ別にある』って言いだすの。

 ははぁ、まだ何かあるな・・・・ととぼけていたら、これは俺からの
 特別のプレゼントだと言いながら俊彦さんが『感謝の気持ちと、その心』
 という花言葉があるキンミズヒキと、ダークピンクのバラと。
 ピンク色のカーネーションの花束を出してくれたの。
 『でも、この3本の花を、君にあげたことは誰にも内緒だ』って笑うの。
 正直に言うと、君の年齢が53歳とばれちまう。
 君は、永遠の50歳でいてくれ、俺たちと、君のファンの全員のために、
 というの。
 素敵でしょう。このふたりのオジサンたちは。
 このチョイ悪で粋なおじさん二人に、私のほうがぞっこんの惚れっぱなし。
 あら、でも、肉体関係なんか結んでいませんよ、私たち。
 営業上の体面だけです。誤解がないようにひとこと添えておきます。
 うっふっふ。
 でも無条件で嬉しかったなぁ、あの時の、おふたりの気持ちは。
 生きていればいいことがあるって、しみじみ感じました・・・・
 ありがとう。いまでも感謝しています、おふたりさんには」

 「おいおい、湿っぽくなってきた。
 そんな訳だから、もうオジさんたちは家に帰って寝る時間だ。
 ママ、これで勘定してくれ。
 余った分は若い連中の勘定に回してやればいい。
 じゃあな、トシの弟子。それから歌のうまかったお姉ちゃん。
 おれらはこれで帰るが、あとは二人で仲良くしんみりとやってくれ・・・
 おう、帰ろうぜ、トシ」

 立ち上がりかける康平を制して、俊彦がふらりと立ち上がる。
意を決したように立ち上がった美和子が、岡本の耳へ何かを囁こうとする。
だが、「それには及ばない」と、岡本の目が、美和子の行動を制止する。

 「おおよその見当はついた。
 せっかくの夜だ。興ざめにすることもないだろう。
 また会おう、姉ちゃん。うまい歌をありがとうな。いい歌だった・・・・
 久しぶりに、身にしみる歌を聞かせてもらった。
 親にもらった大切な才能だ。せいぜい大事にしてこれからも励んでくれ。
 今夜は会えてよかった。世話になった。また縁が有ったらどこかで逢おう」

 岡本が美和子へ小声でささやく。
それだけ言うと、じゃあなと背中を向け、俊彦とともにふらりと出ていく。
足元がふらつく中、『大丈夫かよ、この酔っぱらい」と、お互いに
声をかけながら、出口へ向かってフラフラと歩き始める。