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からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

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 「もっと早い段階なら、枝ごと切り取って焼却すれば済んだ。
 だがここまでアメヒトの繁殖が進むと、そんな対応ではおさまりそうもない。
 対策が遅れたとは言え、たしかにこれではお手上げだ。
 さてそうする。なにか効果的な手がないものか・・・・」

 アメリカシロヒトリが大繁殖している大木を見上げながら、康平が絶句する。
康平は、タバコを吸わない。だが、こんなときは、思わずタバコを
吸ってみたくなる。

 (喫煙家なら、一服しながらアメリカに占領された、
 この大木を見上げるだろう。
 しばしのあいだ、なんだかんだと対策などを考えながら、タバコをふかす。
 だがあいにく俺は、19のときにタバコをやめちまったからなぁ・・・・)


 高校時代からタバコを吸っていた康平が、タバコをやめたきっかけは
俊彦の蕎麦屋『六連星』で、修行をはじめて2年目のことだ。

 あたらしいメニューが出来たので、壁の短冊を交換しょうとした時だ。
短冊が外されると、薄黄色の壁の中にそこだけ真っ白の空間が
ぽっかりと出現した。
驚いた康平が、師匠の俊彦を振り返る。

 『壁は、もともと真っ白だ。
 タバコの煙が付着して、いつのまにか変色する。
 一週間から10日程、拭き忘れた場所があると、軽く拭いただけで
 雑巾が黄色くなる。
 汚れは拭けば落ちる。だが一番の問題は感覚が麻痺することだ。
 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を五感と呼ぶが、調理には
 全ての感覚が必要だ。
 とくに味覚と嗅覚は、最も大切な感覚だ。
 学問的には、9種類の感覚があると言われている。
 さらに細かく分類すると、感覚の総数は20をこえると言われている。
 お前もタバコをやめろ。朝の空気がうまくなる。
 俺も修行時代はタバコを我慢できたが、仕事を覚えてからは
 悪い大人になった。
 いつのまにか、また悪い習慣が戻ってきた。
 あれから20年・・・・禁煙しようと思うのだが、いまだに実行できない。
 調理人失格だな、俺は。
 お前は俺のようにはなるなよ、あっはっは」