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からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

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 簡易郵便局のあるT字路から、坂道がゆるやかに登り始める。
7~8分ほど歩くと、最初の丘陵地へ登り着く。
最初の高台に立つと、赤城の傾斜に沿った田園の広がりを見ることが出来る。
かつてはかつて、『ふじ見の坂』と呼ばれたこともある。
晴れた冬の日には、遥か南西部の山脈の上に、ぽっかりと富士山を
見ることができる。
このあたりから、『富士』を冠した地名が増えていく。
隣接にある『富士見村』などは、まさにそうした典型のひとつといえる。

 アメリカシロヒトリが巣食うクワの木は、丘陵地のほぼ真ん中に立っている。
周囲の木々よりもはるかにひときわ高く、四方へ広がりぬいたその枝は、
真夏になると涼しい木陰を、人々へ提供する。
本来なら桑の葉が、鮮やかな新緑から濃い緑へ変わるころだ。
大きな葉で覆われているはずの大木が今は、白い蜘蛛の巣のようなものに覆われている。
ボロ雑巾が、風に揺れながらぶら下がっているような光景だ。
そんな悲惨な光景が、康平の目の前にひろがる。


 「なるほど、聞きしに勝る凄まじい光景だな。
 まさにアメリカ軍に全面占領された、敗戦国の日本そのものだ・・・」

 クワの大木に巣食っているのは害虫、アメリカシロヒトリ。
本州、四国、九州地方に広く分布をする、北アメリカ原産の害虫だ。
第二次世界大戦の終了後。アメリカ軍の軍需物資などに付着して日本へ、
渡来したと言われている。
1945年(昭和25年)。東京で発見されたのをきっかけに、猛烈なスピ-ドで
山手線の沿線から、中央線の沿線へひろがった。
その後、関東地方を中心に驚異的な速さでひろがり、さらに広範囲に分布した害虫だ。