小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

からっ風と、繭の郷の子守唄 第36話~40話

INDEX|13ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 


からっ風と、繭の郷の子守唄(40) 
「坂道の上で康平を待っていたのは、大木を完全制圧しているアメリカ君」

 苦手だと宣言している害虫に対し、君付けで呼んでいるのは
世間ひろしといえどうちのお袋くらいのものだろう。
坂道を歩きながら康平が、口の中でつぶやく。

 父は康平が小学校6年生の時、2年余りの闘病の末、すでに亡くなっている。
母は、一人息子の康平を女手ひとつで育てあげた。
黙々と畑仕事をこなしながら週のうちの3~4日を、道の駅へ働きに出た。

 たまたま昔の同級生たちが顔を揃えた.
パートの仕事が、千佳子にもうひとつの変化をもたらした。
化粧をせず、日焼けしたまま働いてきた母が、再び化粧水を
手にするようになった。
母が白く生まれ変わっていく様子は、康平にしても予想外だった。
枯れたとばかり思いこんでいた母が、日に日に女としての姿を取り戻していく。
軽い衝撃とともに、母がまだ50歳を超えたばかりという事実にも気がつく。
康平はいま、女はこんな風に変わるものなのかと、変化の不思議さを
見せつけられ、かるい戸惑いを覚えている。

 母の車を取り巻いた3人は、大きな声で意味不明の言葉を連発している。
大きな荷物を、狭い車のトランクへ詰めこもうと躍起になっている。
母は、悠然として運転席へ座りこんだまま
『頼んだよねぇ~康平。アメリカ君の駆除!よろしくねぇ~」と後方の騒ぎをよそに、
涼しい顔で、康平に手を振り続けている。