眠りの庭 探偵奇談2
瑞は伊吹から目を逸らすと、深く息を吐いて、独り言のように呟くのだった。
「…二度も失うわけにはいかないから、必死なんだよ俺」
聞き返す間もなく、瑞は立ち上がって行ってしまう。甘い匂いだけ残して。彼の言葉に、戸惑いつつ、伊吹はその背を追いかけられずにいた。
(…二度?)
まるで、一度失ってしまったかのような言い方。
そして同じ感覚を、伊吹もまた抱いていることを自覚している。
いつかどこかで出会った記憶。
いつかどこかで離れた記憶。
引っ越しとか、死別とか、そういう別離とは違う「別れ」を、自分たちは経験している。
それがいつで、どこで、どんなふうだったかはわからない。
それでも、それはもう確信に近い形で心をざわめかせる。
それがなぜかを理解することは、二人にはできないのだった。
いずれまた死んで。
いずれまた生まれる。
再び出会うそのためだけに、何度でも。
「彼」の魂が持つ、大きな執着のためだけに。
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作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白