眠りの庭 探偵奇談2
中庭には今日も生徒の声が溢れている。昼休みの中庭。これまであったことを、伊吹は初めて瑞から聞いていた。並んでベンチに腰掛けて。
「狐さんか…この庭にあの祠に、そんな由来があったなんて知らなかったよ」
不思議な土地に宿る不思議なものは、まだまだあるのかもしれない。伊吹らが知らないだけで。
「ここ、前もいい感じの雰囲気だったけど、いまはより明るい気がしますね」
思い思いに過ごす生徒たちを見ながら瑞が言う。すがすがしいというか、表情がさっぱりしている。重役から解放され、安堵しているようだった。
「先輩の怪我、大したことなくてよかった」
「大げさだったよな。もうかさぶたなってる。この怪我も、工事中止に一役かえたならよかったよ」
伊吹が言うと、はあ?と瑞が睨みつけてくる。
「なにバカなこと言ってんの?いいわけないでしょう」
こっちは心配したんだ、と頬を膨らませる瑞。怒っている。それはそうかと反省する。
「ごめんて」
素直に謝るが、瑞は伊吹を見つめたまま黙っている。あの日もそうだった。怪我をした伊吹に、こんな目を向けていた。不安そうな、泣き出しそうな瞳。
このまえ、別れ際感じた奇妙な既視感が呼び覚まされる。
いつかどこかで別れて、二度と会えなかったような微かな感覚。
作品名:眠りの庭 探偵奇談2 作家名:ひなた眞白