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バラードが嫌いな彼女は

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 二週間が過ぎた。
 彼女は驚くほどの早さで仕事を覚え、あっという間に通常作業をすべて一人でこなせるようになっていた。責任感と向上心。彼女はこの二つを兼ね備えていたのだろう。私との昼食時も、仕事のことばかりを聞きたがった。
 彼女には“聞き出し上手”という言葉が似合う。自身の失敗談などの話はあまりしないはずの私が、この工場での仕事中に体験したほぼすべての失敗談を彼女に話して聞かせていたのだ。それが彼女の上達の役になっていたのであれば、私も鼻が高い。
 さすがに二週間も経てば失敗談のネタも尽きてくる。彼女もそれをわかっているらしく、あまり聞きたがらなくなった。しかし、何も話さないというのは違和感があり、どちらからともなく取り留めのない世間話をするようになった。
 昨夜のドラマの話、好きな芸能人の話、映画の話、お互いの趣味の話、そして、恋人の話。
 彼女は二十二歳で、恋人と結婚する予定があり、結婚資金の足しにするために働き始めたらしい。正直なところ、二十二というのは意外な若さだったが、落ち着いた雰囲気が彼女を大人びて見せていたのだろう。

「この歌、好きなんだ」
 食堂のテレビから流れてきたCMソング。大ヒットということはなかったのだが、オリコンチャートの二十位以内にかなり長い間ランクインしていた。失恋した女のコが思い悩む様子を歌ったもので、儚げな歌声が印象的なバラードだ。
 いつもと変わらない世間話のつもりで何気なく言った言葉だったのだが、それを聞いた彼女の表情は強張っていた。
「バラードなんて、悲しくなるだけじゃないですか」
 彼女は少し強めの口調で吐き捨てるように言った。
 初めて見る彼女の表情に戸惑いを覚えながらも、確かに結婚を控えた彼女に失恋の歌など似合わないなと思った。
 私は別の話題を探すためにテレビに視線を移した。昼下がりのテレビは、昨夜から今朝に掛けて起きた事件を報道センターの中継で読み上げていた。
 彼女はニュースに興味がないのか、いつの間にか取り出した雑誌を鼻唄を歌いながらパラパラとめくっていた。比較的調子の速いその曲は誰のなんという曲なのか分からなかった。
 彼女のバラード嫌いにはきっと何か理由があるのだろう。私はそれに触れる気はないし、余計な詮索はしないことにした。
 聞こえてくるニュースは、いつの間にか芸能ニュースに変わっていた。