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バラードが嫌いな彼女は

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 私は食堂へと向かった。
 食堂は、電子レンジが二つ、旧型の冷蔵庫が一つ、そして二十四インチのテレビが一つ置かれているだけの場所だ。窓の外に見えるのは田園風景ではなく駐車場のアスファルトであり、私は殺伐としたその空間で食事をするのが日課であった。

 食堂の入口で、新人の女のコが立ち往生していた。その手にはお弁当が入っているのであろう巾着を持っていることから、食事をするために来たのだろう。
「あの、ここで食べても構わないのでしょうか?」
 かしこまった物言いに何かを感じたが、考えてみればこれが彼女と私の間で交わされた最初の会話だったことから、緊張しているのだろうと思い至った。
「いまから食べるところだよ。吉田さんは教えてくれなかった?
 不安げだった彼女の表情が、ほんの少しだけにこやかな物に変わる。
「煙草の煙は苦手なんです」
 吉田さんも喫煙者であり、例に漏れず喫煙所で昼食を済ます。多いときは十人を越える喫煙所での食事は耐えられなかったのだろう。
 私は透明な扉を押し開けて食堂に入った。彼女も恐る恐る続く。
 テーブル、椅子、床、壁、先に挙げた家電製品を含めたそれらすべてが白で統一されているため、“キレイすぎて”入り難い印象を受けたのだろう。
「電子レンジはどっちも使える。テレビは自由に見ていい。ただし、ちゃんと消すこと。リモコンはここに戻す。空調のパネルはここ。温度設定は変更しない。窓のブラインドは好きにしていい。使い方はわかる?」
「はい、わかります」
「冷蔵庫を使うときは名前を書いておくか、その日のうちに処理すること。捨てられちゃうからね。お湯はあの機械から出る。ゴミは持ち帰る。流しはキレイに使う。最後に出るときは電気は消すこと。それぐらいかな」
「わかりました。ありがとうございます」
「ん。じゃ、そゆことで」
 私は彼女の返事を待って会話を打ち切り、食事を始めようといつもの席に腰を下ろした。
「あの……一緒に食べてもいいですか?」
 突然のことで多少驚いたが、何もやましいことはない。
「どうぞ?」
 彼女は私の向かいに座った。
 彼女は一人で食事をするのは好きではないらしく、それは会話の有無ではなく誰かが傍で何かを食べていると彼女自身も落ち着いて食事ができるらしい。
 そんな事情もあり、私は彼女と共に食事を取るようになった。