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BEAT~我が家の兄貴はロックミュージシャン

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(二)

 『BROTHERS』の、CD売り上げは快調だった。最近はモデルの依頼もあるそうだが、これに眉を寄せたのが空だ。海と違って目立つのは嫌いな男は、即答だった。
 「断る」
 「もったいない。モデルとしても抜群なのにぃ」
 「ミキちゃん、無理無理。スタイルより性格に難ありだもん」
 『BROTHERS』サポートスタッフ・幹はモデルとしても、売り出したかったらしいが茶化し始めた海に、空も対抗した。
 「それはてめぇもだろうが?」
 「ほらね、口を開けばこの口の悪さだよ?俺ならいつでもいいんだけど―――…、って睨むなよ。冗談も通じないんだから空は」
 同じ金髪を大きく掻き上げて、海は空の一睨みに後退った。
 「ミキ、まさか引き受けてないだろうな?うちは音楽一本だぞ」
 「プロデューサのリキに逆らうなんて、怖いことしないわ。でも、神崎芸能プロの『SEIYA』は、今じゃモデル業界ではトップよ。うちも歌良し顔良し、スタイル良しなのに」
 「ミキちゃん、この叔父貴が怖いの?」
 「温厚そうに見えるけど、意外に気が短いわよ。昔は、良く神崎竜二に噛みついてたわ。吉良と二人で止めるの大変だったんだら」
 「ミキ、余計な事を云うな。昔の事だろう」
 「ムッとすると、ここに青筋浮かぶのよねぇ」
 思わず噴き出しそうになった海は、口を押さえた。リキのこめかみに、本当に青筋が浮かんだからだ。どうやら短気なのは、事実らしい。
 「『SEIYA』って、あの?」
 「社長神崎が自ら育てたギターリストよ。さすがカリスマ仕込みのテクニックね」
 「だが、コピーでは上へは行けない。音楽の世界は、そんな甘くない」
 さすが元ミュージシャン・天道リキである。
 「誰が来ようが、全力で俺たちはやろだけだ」
 既に譜面に目を通し始めた空に、海もミュージシャンモードにスイッチを切り替える。
 「今夜の『SUCCESS』でのステージは俺は行けん。テレビ関東で打ち合わせがあるんでな」
 「もしかして出演依頼?叔父…じゃなくてプロデューサー」
 「どうやらテレビ側も俺たちを見過ごせなくなったようだ」
 『BROTHERS』はメジャーデビューしたと云っても、生のテレビ出演はない。現在の活動場所ライブハウス『SUCCESS』は、バンドの聖地と云われる。そこを連夜超満員にする『BROTHERS』に、所詮は親の七光りと嘲っていたテレビ関係者は視聴率を確実に採れると計算したらしい。
 テレビ関東には、その神崎竜二がいた。
 「いやあ、驚いたよ。まさか本当に君なのか?竜二」
 昔から大道具担当の男は、神崎竜二を覚えていた。
 「ええ、そうですよ」
 「理解らん筈だ。芸能プロの社長だって?」
 「ええ。しかし、残念です」
 「何がだい?」
 「今日は『BROTHERS』を直に見れるかと期待してたんですよ。あの『KIRA』の息子たちを」
 「執念深いのは変わっとらんか?今度は息子の方とは」
 「単なる興味ですよ。ではのちほど」
 踵を返した神崎は、思わず固まる。
 「天道リキ…」
 リキも気付いた。嘗てのライバルの、三十年振りに対面である。
 「お互い歳を取ったな」
 「何のようだ?」
 「『BROTHERS』は君が育てたのか?」
 「だから?」
 「そう敵対心持たれては話にならない。ウチの『SEIYA』も今度出演する事になってな」
 「アレで満足するようじゃ、あんたも落ちたな」
 「厳しい意見だな」
 神崎は、リキが何を云いたいのか理解っているようだった。『SEIYA』は、確かに上手い。しかし、それ以上ではない。教えられた通りに、ギターを弾いている時点では。故に、コピーなのだ。
 「俺は、あんたを許せない」
 「…だろうな」
 「俺が単なるあいつらの叔父だったら、代わってあんたをこの場でぶん殴ってやっていたよ」
 「ソフィア…いや、ソフィア天道は元気か?」
 「―――彼女は、死んだよ」
 「死んだ?病気か?」
 「あんたが殺したのさ」
 リキは、神崎竜二に会ってもも冷静でいようと心掛けでいた。だが、駄目だった。どうしても許せない。あのままいたら、本当に殴っていた。
 テレビ局を出たリキは、びくり躯を強張らせた。
 空が、真正面から歩いてきたのだ。目立つこの上ない男は、長い金髪を靡かせ、周りを釘付けにしていた。ただ、『BROTHERS』人気ヴォーカルだとは気づかない。まさか人気ヴォーカリストが堂々と道を歩いているとは思わない。いや、それどころではなかった。
 「空!」
 「何だよ、真っ青な顔をして。俺は幽霊じゃねぇぞ」
 「いいから、来い!」
 そこにテレビ局から出てくる神崎竜二も現れると、リキは舌打ちをした。
 「まさか、彼は―――」
 「空、俺の車に乗れ!早く!!」
 空は、神崎を無言で睨んでいたが、往来の場所で騒ぎを起こす訳にはいかない。
 「…まったく、今日は何て日だ」
 「叔父貴がカッとした姿、初めて見たよ。短気だと云うのは間違っていないようだな」
 「お前、何故あんなところにいた?」
 「近くに用があってね。しかしさっきのは、露骨すぎる。神崎も変だと思うぞ。あれだけあんたが焦れば」
 リキは舌打ちしたが、空は逆に冷静だ。
 「お前は許せるのか?神崎を。あの男は―――」
 「俺は、あんたほど執念深くない」
 彼らが去った駐車場で、神崎はまだ呆然としていた。
 「社長、こちらでしたか」
 「今すぐ調べて欲しい事がある」
 「お急ぎになりますか?」
 「とりあえず、ソフィア・天道と言うソプラノ歌手の事を」
 天道吉良の最初の妻にして、アメリカ人ソプラノ歌手。
 ―――あんたが殺したのさ。
 リキの言った言葉が、気になった神崎であった。
 空が天道家に帰ってくると、まだ誰も帰っていなかった。
 「―――っ!」
 蹌踉めいた躯を支えきれず、空は派手に転んだ。
 「空?」
 帰宅した陸が、驚くのも無理はない。海なら理解るが、空は滅多に転ばないからだ。
 「海ならまだ帰ってないぞ」
 「なんか俺、最近空の貴重なシーンよく見るんだけど」
 「お前な、俺を何だと」
 「あ、鉄仮面と言ったのは俺じゃないからね」
 「馬鹿正直なのは、叔父貴と海だけでいいんだが?」
 陸ら陸で顔に素直に出てしまうらしい。
 「無理のし過ぎだよ、空。最近徹夜で曲を書いてると海兄も心配してたよ」
 「止まっていられないのさ」
 「あまり―――無理をするなよ。空も俺の兄貴なんだから」
 「ああ」
 トントンとリズム良く二階に上がっていく弟の足音に、空は拳を握りしめる。
そう、止まってはいられないのだ。
 自室に入った空は、押し入れを開けた。その中で、見たモノ。
 「俺は、もう逃げない」