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からっ風と、繭の郷の子守唄 第31話~35話

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からっ風と、繭の郷の子守唄(33)
「12年前の古い事件と、任侠映画が死ぬほど好きな辻のママ」

 「今からもう12年も前の話さ・・・・
 あの時の少女がこの子と同一人物とは思えないが・・・・
 しかしよく似ている」

 ありえない話だと、岡本が自分の考えを強く否定する。
歌い終えた美和子がステージから戻ってきた。
岡本はまだ、自分の考えの中でぼんやりと整理している。
虚ろな表情を見つけた美和子が、岡本の隣へふわりと腰を下ろす。

 「放心されたようなお顔です。お気に召しませんでしたか、あたしの歌は」

 どうぞと、美和子が徳利を持ち上げる。
『おう、すまねぇなぁ』岡本が腕組していた両手を、あわてて振りほどく。
テーブルからグラスを持ち上げる。
グラスにたっぷり、日本酒を注いでもらう。
それをあえてゆっくりと岡本が、自分の口元へ運んでいく。

 「唄は気に入った。いい歌だ。
 放心していたのは、ちょいと古い記憶をたどっていたんだ。
 記憶違いなら申し訳がないが、12年ほど前に東京葛飾の四ツ木という斎場へ
 顔を出した覚えがあるかい。美和子さんは」