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からっ風と、繭の郷の子守唄 第31話~35話

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 「丑の刻というのは、午前1時から3時までの2時間。
 2時間を4つに分けて、三番目にあたる時間帯が丑三つ時と呼ばれています。
 午前2時から2時半ということになるかしら。
 四つになると、夏場は、夜も白みかける時間帯になります。
 だから丑三つが、一番深い夜という意味で使われてきたのです。
 『丑が満る刻』というのもあります。
 丑の刻が満る時は、地球上の全てのものの動きが止まると考えられています。
 さらに寅の刻へ動き出しますが、この瞬間、お化けが出現する事に
 なるのです。
 深夜の2時。それが『丑三つ時』のはじまりです」

 「博識だ・・・・さすがママだね。
 そうすると、この時間におきているのはお化けか、
 魑魅魍魎(ちみもうりょう)ということになる。
 美しすぎて、男を次から次へ食い殺す妖怪なども含まれている。
 それが誰とは、俺は言わないがね。あっはっは」


 「失礼ね。男を2人ばかり取り替えましたが、食い殺してはおりません。
 年齢的に、俊彦さんと釣り合うのですが、私の好みは康平くんです。
 美和子ちゃん。飽きたら康平くんをわたしにちょうだいね。
 たっぷり、おばちゃんが。可愛がってあげますから」

 「おいおい。他人のものをやたらと欲しがるんじゃねぇ。
 だいいち、若い者たちが本気にしたら可哀想だ。
 そのくらいにしておけ。
 そういえば美和子ちゃんは、歌手と言ってたねぇ。
 このあたりで、ひとつ君のうまい歌を聞かせてくれないか。
 辻ママもなかなかの歌い手だが、ほうっておくと勝手に古い歌ばかりを、
 延々と歌いはじめる。
 下手ではないが、それが毎度のことなので、いいかげんに聞き飽きた。
 たまには若くて綺麗な女性の歌がききたい。
 いい機会だ。一曲歌ってくれないか。礼ならたっぷりとはずむから」

 「礼はいりません。
 あたしでよければ、一曲聞いていただけますか?。
 持ち歌があるんです」


 「おっ、持ち歌があるのか。いいねぇ、ぜひ聞かせてくれ」


 それでは、と美和子が笑顔で席を立ち上つ。
満席に近かった辻の店内も、この時間になると空席が目立ってくる。
ボックス席で顔を寄せ合っている睦まじいカップルや、肩へ手を置き、
なにやらひそひそと語り合っている2人組の姿などが、ポツポツと残っている。

 (まともなカップル達というよりは、怪しげな人間関係と、
 見るからに不倫中という男女が集まっています。
 ・・・・そういうあたしも、予備軍みたいなものですけどね。
 でも康平にその気がないから、道ならぬ恋には発展しないと思います)

 自分の持ち歌、『夜の糸ぐるま』をセットした美和子が、
1坪ほどのステージに立つ。
聞き覚えの無い前奏に、店内から『おや・・・』というどよめきが起こる。
ステージに立つ美和子へ、興味本位の視線が集まりはじめる。