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からっ風と、繭の郷の子守唄 第31話~35話

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 「お気遣い、ありがとうございます。
 では、あたしたちも遠慮をしないで好意に甘えて、頂戴したいと思います。
 ママさん。あたしは、冷えた生酒が大好きなの。
 近藤酒造の赤城山があれば最高です。在庫ありますか?」

 「あら。こちらのお嬢さんはお若いというのに、日本酒を
 よく分かっていますね。
 かしこまりました。よろこんで受け承ります。
 康平くんは、いま飲んでいる黒霧島のお湯割りでいいわよね。
 毎度ありがとうございます。
 今夜もおかげさまで、大繁盛です。
 うふふ。さてさて、商売、商売。忙しい、忙しい」

 辻ママが愛想笑いを残して消えていく。
後ろ姿を見送った美和子が、膝を揃えなおす。
あらたまった顔で、岡本を見つめる。

 「如才のない方ですねぇ、こちらのママさんは。
 さて、あらためまして、もう一杯をいかがですか。岡本さん」

 「おっ、やっぱり。俺の名前を覚えていたか。
 ということは、やはり俺たちは、何処かで行き会っていたはずだ。
 だが、いまだにそれが思い出せねぇ。
 お前さんの顔には、たしかに見覚えがある。
 だがいつ行きあったのか、どうにも思い出せねぇ。
 最近でないことだけははっきりしているが、いつ頃だったか分からねぇな。
 そろそろ種明かしをしてくれ。
 いったい俺たちは、いつ、どこで行き合ったんだ?」

 「種明かしは簡単です。
 でも少しばかり、ワケがありますので人目をはばかります。
 のちほどお耳を拝借をして、種明かしをいたします。
 いかがでしょうか、そういうことで」

 流し目の美和子が、岡本に低い声で応える。

 (なるほど・・・・
 たしかにこの子が言う通り、俺たちは何処かで会ったことが有る。
 それも、人目をはばかるようなワケ有りの場所だったというのも、
 はっきりした。
 俺の記憶力もずいぶんと落ちてきたもんだな・・・・
 やっぱり、歳には勝てねえか)
 
 納得したのか、岡本もそのまま話題を切り上げてしまう。
4人のあいだに、ほんの一瞬、ぎこちない沈黙の時間が訪れる。
だが再び登場をした辻ママによって、元の賑やかさが戻ってくる。
冷酒を抱えたママがお尻を振りながら、康平と美和子の間へ割り込んでくる。