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からっ風と、繭の郷の子守唄 第31話~35話

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 「暴対法が決まって以降。構成員の数は、横ばい傾向が続いた。
 だがここへきてから、微増の方向へ転換したらしい。
 理由は明かされていない。
 長引く不況と、就職氷河期の影響もあるだろう。
 暴力団は、好景気と不景気の時に、なぜだか成長を遂げる。
 トップの六代目山口組は、 1都1道2府41県を支配下においている。
 構成員は 15,200人。
 2位の住吉会は、1都1道1府16県に影響力があり 構成員は5,600人。
 3位が稲川会。 1都1道17県におよんで、 およそ4,000人。
 トップ3が、21あるといわれている指定暴力団の、7割を占めている。
 4番目以下は、数百人程度の弱小組織ばかりだ。
 俺のところは、それらよりもはるか下位にある、超零細組織だ。
 一極集中の傾向が顕著にすすんでいる。
 準構成員も含めると、3万人を超える六代目山口組が指定暴力団組織の、
 45%を占めている」

 「ついでだから教えてよ、岡本ちゃん。
 古い付き合いだから、何も言わずに払い続けていますけど、
 毎月払っているお花代、通称『みかじめ料』には、どんな意味が
 あるのかしら。
 大雑把にはわかるけど、折角だから、それも教えてちょうだい。
 東京六大学を卒業してきた高学歴のヤクザなんて、めったにいないもの」

 「え? 不良のくせに岡本さんは、東京の六大学を出ているのですか!」

 となりで聞いていた美和子が、思わず大きな声を上げる。
声の大きさに店内に残っていた客たちが、何事がはじまったのかと、
こちらを振り返る。
「ごめんなさい・・・・」顔を真っ赤にして、美和子がうつむく。
「気にすんな。本当のことだから仕方がねぇや」と岡本が、美和子の肩を
優しく叩く。


 「不良が、水商売をやっている店へ毎週、花束を届ける。
 届けるのは、二束三文の花束だ。原価はせいぜい百円程度。
 店は代償として、1万から2万円を「お花代」として不良へ支払う。
 それが暴力団へ上納する『、みかじめ料』というやつだ。
 暴力団が飲食店から徴収する、用心棒代やショバ代、挨拶代、挨拶料だ。
 みかじめの語源には、諸説ある。
 毎月3日に金を払わせることから。3日以内に払わなければ締め上げるという
 日数の「みっか」に関連した説がひとつ。
 「みかじめ」には、「管理」「監督」「取り締り」といった意味も含まれている、
 したがって「守り・取り締り」に対して、支払う金というのが正しいだろう。
 漢字で、『見ヶ〆』と書くことから、『見』が見張る、見守るという意味で
 『〆』じめは、取り締まるという意味、というふうに解釈できる」

 「やっぱり、理路整然としているわねぇ~
 東京六大学を卒業してきたインテリヤクザは、凄い。感心しちゃう!」

 「おいおい、ママさん。
 俺だって好き好んで、ヤクザの道に入ったワケじゃねぇ。
 霞ヶ関の官僚か、県庁で地方公務員をしていたはずなんだが、
 気がついたらいつのまにか、やくざ組織の跡目を継いでいた。
 だいたいにおいて常識というやつは、最初から考え方が狭すぎる。
 常識の範囲内を歩いている奴はセーフだが、脇道にそれて道を踏み外すと、
 それだけでアウトだ。
 世間からは、白い目で見られる。
 そういう見方や考え方に、実は、致命的な欠陥がある」