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迷子の雲とさようなら

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「あんたね・・・」
母は俺の姿を見るなり呆れかえり、しゃがんで洋服を正しく直してゆく。
ぶらんと垂れ下がった帯状の物は、金具で袖に付けたり、言葉じゃ言い表せられないようなよく分からない物が。裾に、袖に。色んな所に付けられる。
「ほら、出来たよ」
鏡を見る。
本当にファンタジー世界に来たかのような、不思議な姿である。
「俺・・・かっこいいんだな」
「気持ち悪いわよォ。ご飯食べなさい」
「・・・うあい」
だるい声で返事をした。
正直、深く考えるのはやめようかと思う。
どうせ夢なんだ。
ただ、いつもの夢と違って全ての感覚が正常。それだけだ。
そう、それだけだ。

朝食を食べた。
玄関を出る。
スニーカーは茶色の皮のブーツになっていた。
「行ってきます」
この夢にもちゃんと学校はあるらしい。
玄関を出る。
やっぱりこれは夢だと思った。
妙に身体は次にやるべきことを知っているようであった。
左に曲がりたい。なのに右へ曲がる。
そこは真っ直ぐの筈だ。なのに左に曲がる。

・・・学校、だろうか。
木製の大きな門の下、皆笑っている。
笑って。
笑っている。

「みぃつけたーぁ」

砂糖を噴出するかのような甘ったるい声が俺を捕まえた。
後を振り返る。
数名の男女であるのだが、何かが違う。
目が紅い。
異常な程の笑顔だ。
そして、右手に光るそれはなんだ。
「寿くんですよねぇー?」
ゆらり。
人間離れした顔がゆっくり自らの右肩に凭れている。
こいつらの骨はどうなっているのだろう。
そのくらい、奇妙な凭れ方であった。
数名全員が同じ動きをした後、全員一斉に、しかも今度はバラバラに、此方に飛び掛ってくる。
右手に持つ武器を光らせて。
「ばいばぁい」
ガシュンッ!
小型の刃物が頬を掠る。
予想以上に傷が深かったのか、ぼとぼとと血が落ちる。
パリィィン!
俺の目の前に淡い青の映像が浮かび上がる。
ほら、電脳コイルって知ってっか?あれみたいな。手で触れられるけど自分の動きに合わせて動く。浮遊物。
まるでRPGの戦闘の時に画面下に出るコマンドだ。
『舞臣(まいおみ)戦闘団が現れました。強制戦闘モードに入ります。』
白の文字でそう出た。
何が起こってやがる。
『打撃 魔法 特技』
『どれかを選んで下さい。』
魔法を人差し指で押してみる。
『今使える魔法』
『レイン』
『レインの効果-水系の呪文です。鋭い水しぶきが相手全体を襲います。』
「これでいい!!」
やけくそであった。
レインを人差し指でなぞる。
身体が「押す」でなく「なぞる」を選んだのだ。
ぶわりと身体の真下から風が吹いた。
下を見ると、俺は魔方陣の上に立っていたのだ。
「・・・・・・・・・〜」
俺はぶつぶつ何か呟いていた。
自分でも分からない。全身に鳥肌が立つ。
「・・・戦闘呪文レイン発動!」
カッと目を見開いていた。
バシュゥン!
パシュゥン!
相手に、鋭い刃物のような雨が降る。
『団員A、B、C、D共に25のダメージです。』
「ちょっと、何あれ聞いてないわよ!」
「くそ・・・っ、ずらかるぞ!」
バタバタバタと音を立て、全員は逃げていった。
『相手は逃走をはかりました。ミッションは成功です。経験値は15です。』
『舞臣戦闘団員Bは武器を落としていきました。』
『プレイヤー寿は小型武器、サバイバルナイフを手に入れました。』
「ふぅ・・・」
ミッション成功って・・・。何のだろう。
『舞臣戦闘団についての詳細を見ますか?』
『はい いいえ』
つかさず「はい」を押す。
『舞臣戦闘団』
『メンバー2000人の大規模な戦闘団です。』
『敵に回すとかなり厄介です。』
『ですが、舞臣戦闘団は上級位に立つ5人以外は全て戦闘値、レベル共に低いのでレベル上げにはもってこいです。』
なんじゃこりゃ。
『戦闘値・レベルについての詳細を見ますか?』
『はい いいえ』
勿論「はい」だ。
『ただ今通信中です。』
『戦闘値』
『戦闘値は、攻撃値、防御値、魔法値、特技値、魅力値の5つで構成されています。』
『攻撃値は、攻撃の仕方、打撃の際のダメージ値で構成されるものです。攻撃値を上げると相手の急所を判断しやすくなり、打撃系の戦闘が得意な方には大変有利になります。』
『防御値は、攻撃のかわし方、防御の仕方などで構成されるものです。防御値を上げると相手の攻撃に対し防御でのダメージ値が半分以下になり、ともて有利な戦いになることでしょう。全員上げることをお勧めします。』
『魔法値は、攻撃魔法の唱え方、防御魔法の唱え方、治癒魔法の唱え方などで構成されるものです。魔法値を上げると、同じ魔法でも威力が倍以上になりましたり、派手なものに変わっていきます。魔法系の戦闘が得意な方には大変有利になります。』
『特技値は、打撃系特技のやり方、防御系特技のやり方などで構成されるものです。特技値を上げると同じ特技でも威力が倍以上になりましたり、『ヒット』が出やすくなります。特技系の戦闘が得意な方には大変有利になります。』
『ちなみに『ヒット』とは、特技によって相手の急所を突き、大ダメージを与える事です。』
『魅力値は、戦闘そのものの魅力で構成されます。攻撃値、防御値、魔法値、特技値を平均的に上げ、平均的かつ美しく全てを使う事で魅力値は上がります。魅力値が上がると普通の装備品だけでも威力が上がったりします。此方は選択して上げることはできません。』
「・・・うーん・・・。分かったような分かんないような・・・。」
『レベル』
『レベルとは、経験値が上がる事により、自分の戦闘力の値を教えてくれるものになります』
『レベルと戦闘値は違い、戦闘値は選択する事によって覚える魔法、特技などが異なりますが(一部を除きます)、レベルは上がる事で決まった魔法、特技が覚えられます。人により覚える魔法、特技は違います。』
『これで詳細の説明を終わります。』
ポウン
淡い青のパネルは消えてしまった。
周りの視線が痛い。
「あーと・・・。なんでしょうか。」
誰にとも無く尋ねる。
すると一斉に皆笑顔になり、此方へと駆け寄ってくる。
また戦闘だろうか、だがパネルは出てこない。
「あんた凄いよ!」
駆け寄ってきたうちの一人はそう言った。
「は・・・?」
「舞臣の奴等は私等も手を焼いてんだよ!」
「すごいね!あんた!!」
よく見ればクラスの友達も「寿ってすげーのな」とはしゃいでいた。
ああ。この夢は俺に優しい。
そんな事を思うくらい優しかったのだ。
作品名:迷子の雲とさようなら 作家名:藍野雅