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迷子の雲とさようなら

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整理しよう。
俺はどうやらこの夢では世間様より少しだけ違う力が身についているようなのだ。
所謂、あれ。勇者っていうやつなのかな。
世間様より力も強くなっている。
まぁこんな夢は普通によく見るわけだが、夢とは違うような気もするのだ。
まず第一。自我が持てるところ。
俺は大抵の夢だと自我が持てない。
頭の中は空っぽで、身体だけが動いてる。
第二、感覚が鮮明である。
俺の夢は大体が、感覚を持てない状況にある。
物を持っていた筈なのに、感覚がなかったというのはよくあることだ。
第三、目に異常がない。
俺の夢は大体、目でハッキリと物をとらえることができない。
眩しかったり、はちみつ色がかって見えないことがしばしある。
本当に夢なのか。でも夢じゃないとしたら確実に厄介な事になる。
まぁゲームは好きだよ?よくやるし、「本当に主人公になれたらなぁ」なんて一回や二回ではすまないほど思うわけだ。
でも現実でこうなったら、俺は世界を背負わなきゃいけなくなる訳だ。
推測だが、先程襲ってきたまい・・・なんちゃらが言っていた「聞いてないぞ」という台詞。こりゃ俺の首を狙ってた訳だよなぁ?
だとしたら、後でまた仕返しに来る筈だ。
んでもって、そいつ等を倒すとさ、「よくもやってくれたなぁーげぇっへっへ」みたい感じで中ボス登場。そこで戦闘になって俺が勝つ。
すると今度は中の上くらいのボスが来る。
俺は一回そいつに負け、仲間を探す為に―とか。そんな感じだろうな。
ゲーム脳ばんざい。と言いたいところだけど・・・やっぱり厄介だ。

そんな事を思いながら、何故か俺は家へと足を向かわせていた。
自分の意思ではないのだが、先程の経験から、これが正しいのだろう。
俺はそう思い身を楽にして家へと歩いていた。
と。
「あ・・・!」
俺が門を曲がると、誰かとぶつかったようであった。
大きな影も、俺も倒れる。
「いって・・・。何しやが・・・る?」
相手は背が大きい、女顔であった。
語尾がどうして疑問系なのかは、俺にも分からない。
長い前髪を所謂「おちょんぼ」でくくっている、幼い顔が此方を凝視した。
全体的に右の方の洋服が長く、左は適度に露出している。
左は短パン、右はだぼったいズボン。短パンの下から覗く僅かな太股は白かった。日焼けはしていない。
長いブーツは膝の少し上から脚を隠すようにしてある。
一見見れば、女である。
背は俺より高いものの、身体は華奢である。
「だ、大丈夫?」
「は、はい・・・!あんたってもしかして・・・」
声は、低かった。
「さっきまい・・・なんとかを倒してた?」
「あ、うん・・・。そうだけど・・・。」
俺が答えると前に座る子は俺の両手を握り、立ち上がる。
「俺・・・!相川蘭(あいかわらん)と言います・・・!ちなみに見て分かる通り男です!」
俺の予想は外れた。この子は男らしい。
「もしかして、あんた・・・。俺と同じ・・・?朝起きたら世界が変わってたって人ですか!?」
ドキリ。
蘭君は俺と同じ境遇らしい。
俺は黙って首を縦に振った。
見る見るうちに明るくなる彼の顔。
「うわあっよかったぁ!俺、聞く人聞く人みぃんな馬鹿にするから・・・不安で不安で・・・!!」
彼は俺の両手をぶんぶん上下に振って喜んだ。
俺もどっちかと言えば喜んでいるのだが・・・。
「あの、君っていくつ・・・ですか?」
「はい、僕は14です!」
14!?俺より三つ年下じゃないか!
「へぇ・・・、そうなの?」
「はい!」
楽しそうである。
子供のようにはしゃぐ蘭君を何とか落着かせ、次の行動へ移そうとすると、またあのパネルが邪魔をする。
『相川蘭』
『聖西川学園中等部所属。』
『戦闘レベル2』
『仲間に出来ます。』
『仲間にするにはお互いの血を混ぜ、呪文を唱えなければいけません。』
『仲間にしますか?』
「何ですか、それ・・・」
「君、あの有名学園に通ってたんだね・・・」
「そうじゃなくて・・・。」
俺の手が勝手に動く。
『はい いいえ』
「はい」を押す。
『血を混ぜて下さい。』
俺の右手が先程の戦利品、ナイフを手に取る。
「何を・・・!?」
ナイフが俺の左の手の甲を、ゆっくりと斬る。
血があふれ出す。
そして蘭君の左手の甲をも傷つける。
蘭君は動けないようであった。
二人とも左手の甲を下にする。二人の落ちた血が、どんどんと混ざってゆく。
キィィン!
混ざった血が光る。
二人の立つ地に大きめの魔法陣。
二人の意思を無視する身体が、何かを唱える。
二人の周りに火花が散る。
熱い。熱い。熱い。

シゥゥゥン・・・。
バチバチとした火花は一斉に床に落ちた。
パパパパパァァン!!
二人を包むように火花が小さく爆発を起こした。
二人の目の前にパネルが出た。
『相川蘭が仲間になりました。』『篠原寿の仲間になりました。』
『『仲間になった証の指輪を贈呈致します。』』
二人の目の前に少しごついリングが。
手に取ると光を放ち、また元に戻る。
「うわ、傷治ってますよこれ・・・。こわっ」
「うん、まぁいいんじゃないの・・・?」
とりあえずお互いに、左人差し指にその指輪をはめた。
と、ちょっと待てよ・・・。
これ、フラグじゃん。
俺旅に出ちゃうフラグじゃん!
もう深く考えるのはやめようと思った。
作品名:迷子の雲とさようなら 作家名:藍野雅