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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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「お前もあの時、すーっとしたか?初日の夜、やったっけか?」
「うん!ちゃんと僕の話を聞いてもらえて嬉しかったよ」
「そうか…」
 ジヴは優しい目でキーゴの頭を撫でた。
 雨はいつの間にか小雨に変わってきていた。蒸し暑いながらも、濡れた土と草木の匂いが穴の中に心地よく充満していた。
「でもね、ジヴ…」
「なんや?」
「ジヴはさっき友達なんていないって言っていたけど…」
 キーゴはにっこり笑って、大きな声で言った。
「こういうことを言い合えるのって、友達だと思うよ!」
 キーゴがあまりにも天真爛漫に言うので、ジヴはしばらくその大きな瞳をキョロキョロさせ、
「…う、うるさいわ!この年で、友達なんかいらへん!」
 そう言って、突然背中のリュックをなにやらいじり始めた。
「ええと…あれは…どこやったかな?」
 そう言いながらジヴは、リュックの中の物を出したりしまったりしだした。
「僕、手伝おうか?」
 キーゴが申し出ると、
「え、ええわ!触らんでええ」
「何を探してるの?」
「かゆみ止めや!なんかさっきから、脇の下あたりがムズムズして、痒くてたまらん!」
 それを聞きながらキーゴは「かゆみ止めなんて、最初から持ってきてたかな?」と思った。
「ねぇ、ジヴ。僕が脇の下かいてあげようか…?」
 キーゴが聞くと、
「いらん!そもそもお前が変なこと言うから、痒くなってきてんねん!…あー、かゆ!」
 と言いながら、ジヴはリュックを持ったまま怒ったようにキーゴに背を向けてしまった。
「僕、何かまた変なこと言ったかな?」
 キーゴには、それがジヴなりの照れ隠しだということが分からなかった。

  19、ヨナキネコ

「ねぇ、ジヴ…」
 キーゴがジヴに話しかけようとしたちょうどその時。
「メ、メェー…メェ〜〜!」
 暗い穴の奥の方から、ヤギの鳴くような声が聞こえてきた。
「え?」
キーゴは思わず振り返った
「なんや?この穴。先客おったんかいな」
 背を向けていたジヴもリュックを持ってこっちに向き直った。
「メェ〜…」
「ねぇ、あれヤギの鳴き声だよね!僕のうちでもツノオレヤギ飼ってるんだよ。ミリーっていう名前なんだ」
 キーゴは懐かしそうに言った。
「ベェー…」
「今まで気付かなかったってことは寝てたのかな?ねぇ、そんな暗いとこいないで出ておいでよ〜」
 キーゴは暗がりに呼びかけた。
「メェ〜〜」
 しかし、声は聞こえても、その声の主が一向にこっちにくる気配はなかった。
「おかしいなぁ…ヤギさーん」
 ならばと、キーゴが暗がりに一歩ずつ前に踏み出して行った。
「おい、ちょっと待ち!」
 ジヴが急に何かを思い出したように、キーゴを呼び止めた。
「それ、ヤギじゃないかも知れへんで」
「え?」
 ジヴは赤ん坊がハイハイするかのように四つん這いになって、キーゴに近付くと右手でキーゴの肩を引いた。
「そいつ、多分ヨナキネコや」
「ヨナキネコ?」
 キーゴはジヴの方を振り返り、ジヴの暗がりを睨みつけるような目を見つめた。
「ネコっていうてもネコなんて大人しいもんやあらへん。一メートル以上あるしな。夜行性のれっきとした肉食動物や」
 ジヴは暗がりから視線を離さずに続けた。
「足は馬とかヤギみたいに蹄が生えとるんやけど、そうやって鳴き声と足音を草食っとる連中に似せて、仲間だと思って他の動物が近寄って来たところを襲うねん。口の割に牙はやたらとデカイしな。お前なんかはもちろんやけど、俺でも戦ったらきっと怪我するわ」
 そう言って、ジヴはキーゴの肩に置いた手をゆっくりと自分の方に引いた。
「メェ〜〜」
 その間も鳴き声は穴の中に響いてくる。しかし、その声はどこか辛そうだった。
「ベェー…」
「ねぇ、ジヴ?なんだかヤギさん悲しそうだよ」
「だから!ヤギやないかも知れん言うとるやろが!弱々しい鳴き声出して、こっちを誘っとるのかもしれん。このままゆっくり外出た方が安全や。幸い、外は晴れてきたみたいやしな。」
 ジヴの言う通り、いつの間にか嵐は通り過ぎたのか、穴の入り口の方からはポタポタと垂れる水滴の音が聞こえ、チラチラと光が射してきたようだ。
「でも、本当にヤギさんかもしれないよ。僕行ってみる!」
 そう言って、キーゴはジヴの制止を振り切って、少しぬかるんだ地面をペタペタと走りながらキーゴは暗い穴の奥へと行ってしまった。
「お、おいちょっと待たんかい!」
「大丈夫だよ!」
 ジヴも慌てて追いかけたが、天井が低いために這ってついて行くことしか出来ず、なかなかキーゴに追いつけなかった。
「ちょっと待てて!おい!」
 すると、穴の奥からキーゴの絹を引き裂くような悲鳴が聞こえてきた。
「きゃーーーー!」
「キーゴ!?」
 ジヴは四つん這いの体勢をもどかしく思いながらも、転がるように穴の奥へと進んで行った。
「ジヴーー!」
 キーゴが叫んでいる。
「ジヴ!」
「無事か!?」
 やっと追いついたジヴも負けないくらいの大きな声で怒鳴った。
「うん!あのね、ちょっとこれ見て!」
 ジヴがキーゴがいる方を見ると、果たしてそこにいたのはツノオレヤギではなく、ヨナキネコだった。
 ただし、状況はジヴが予想していたのは少し違うようだった。
「ん?これはヨナキネコやけど…」
「そう!可愛いでしょ?まだ子どもみたいなの」
 暗がりに溶け込む黒い体と、反対にはっきりと目立つ白い四肢と蹄はまさしくヨナキネコだったが、その体は一メートルどころか、どう見ても三十センチもないくらいだった。
「メェ〜〜…」
「なんや、襲われたかと思ってびっくりしたやんか」
 ジヴはひとまず、ホッと息を吐いた。
「ごめんね。あんまり可愛かったからつい叫んじゃったんだ」
 実際ヨナキネコの子供はまだ顔もあどけなく、蹄を持つ四肢さえなかったら、本物の黒い子猫のようだった。
「全く人騒がせなやっちゃな…にしても、こいつまだガキやな。どうしてこんなところにおるんやろ?」
「それがね、これを見て」
 キーゴはヨナキネコの後脚を指差した。「あー、これは大変やな」
 見ると、ヨナキネコの左後ろ脚には大きな傷があり、血がにじんでいた。
「立てないのかもしれないよ」
「ベェ〜、ベェ〜」
 キーゴの声に応えるようにヨナキネコが辛そうに泣いた。
「そやなぁ…」
 ジヴは迷っていた。持ってきたリュックの中には傷薬も入っていた。
「傷薬、使ってあげようよ」
 ジヴが考えていることが伝わったのか、キーゴが急かした。
「せやけど、傷薬はあんまりあれへんし、これから先必要になるかも分からん。それにこいつ助けたところで、野生の動物なんて非情やで?治ったあとお前をペロリなんてこともありえるねんで?」
 ジヴはあくまで慎重だった。
「大丈夫だよ。この子大人しいから」
 キーゴは、そう言ってヨナキネコの方に手を伸ばした。
「あ!なにすんねん!」
「大丈夫」
 キーゴはそのままヨナキネコの頭をそうっと撫でた。
「メェ〜〜」
 ヨナキネコは一声鳴いたものの、それ以外は大人しくしていた。
「ほら!いい子」
 キーゴは笑顔でジヴの方を振り返ると、体をずらし、今度はもっとしっかりとヨナキネコの頭を撫でた。ヨナキネコは気持ちよさそうに目を閉じた。