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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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「ねぇ、だからさぁ、ジヴ。傷薬」
 キーゴが期待を込めた目でジヴを見た。「…知らへんからな。言っとくが、怪我は俺よりお前の方が、する可能性高いんやで」
 ジヴは半ば諦めたように言った。
「大丈夫!僕が怪我はしそうな時は、きっとジヴが守ってくれるから!」
「…そしたら俺が怪我するやんか」
 ジヴはポソッと呟いたが、右手はすでにリュックの中で傷薬を探していた。
「じゃあ、お前、こいつが俺のこと噛まへんようにしっかり見張っとけよ」
「うん、大丈夫!この子噛まないよ」
 全く疑っていない様子でキーゴはヨナキネコの頭を掻いてやった。
 ジヴは恐る恐るといった感じで、薬壷から薬草の軟膏を指に塗ると、ヨナキネコの左脚につけた。
「メェー!」
「うわっ…!って、いきなり噛みそうになってるやんかこいつ!」
「ジヴが何にも言わないで薬付けようとするからだよ〜。染みてビックリしたんだよねー?」
「ベェ〜」
 ヨナキネコが同調するように鳴いた。
「ったく…次やったら俺もうなんもせえへんで」
 そう言った後、今度は渋々「はいはい、可愛い猫ちゃんお薬つけますよーっと」と断りを入れながら薬を塗っていった。
「べー」
 今度はヨナキネコも大人しくしていた。「賢いねー、きみ」
 キーゴは今度は喉をくすぐると、ヨナキネコはゴロゴロと喉を鳴らした。
「これでよし!と。あとはそこらへんの大きい葉っぱでも巻いといたらええ。…あーあ、やっぱりもうほとんど薬なくなってしもたやんか」
 空になった薬壷をリュックにしまいながらジヴはまだ未練がましく言っていたが、キーゴは聞いていないふりをした。
「おい、これで気が済んだやろ?俺はもう寝るで。お前はどうすんねん」
「僕、もうちょっとここにいるよ」
 キーゴはすっかり情が移ってしまったようだった。耳の後ろやお腹を撫でて、ヨナキネコと戯れていた。
「…ふん!ほな、知らんで!突然食われてもな!」
 ジヴはそう言って、リュックを背負い、また四つん這いになりながら穴の入り口の方へ戻って行ってしまった。

  20、睨み合い

 朝、ジヴは穴の入り口から差し込んでくる光と、小鳥のさえずりで目を覚ました。 
 目を覚ましてすぐ、気になったのはキーゴのことだった。
 ジヴは自分の体周りをキョロキョロしてみたが、そこにキーゴの姿はなかった。
「まさか本気で食われたりしてへんやろな…」
 心配になってジヴはほの暗い穴の中を四つん這いで進んで行った。
「おい!おーい!朝やで!生きとるかぁ!?」
 大きな声で呼んだ。
「…メェ〜〜」
 返ってきたのはヨナキネコの声だけだった。
 薄闇にもその目はキラキラと光っている。キーゴは両足がぼんやり見える程度で、動いている様子はなかった。
「ちょ、おい!お前、ほんまにあいつのこと食うてへんやろな!」
 ジヴは慌ててヨナキネコの方に近付いた。「俺の『弁当』食っとったら、お前後で…」
「ううん…ジヴ?」
 キーゴが眠そうな声を上げた。
「…なんや生きとったんか」
「えぇ〜?生きてるってなぁに?」
「いや、別になんでもないねん」
 ジヴは少し恥ずかしそうに言った。
「ネコちゃんがあったかくってとってもいい気持ちだったよ。つい僕うとうとしちゃって…」
「それで朝までぐっすりか。いい気なもんやな、全く」
 ジヴは少し怒ったように言って、キーゴに背を向けて、入り口の方へ戻り始めた。
「嵐は止んだみたいやから、早う準備しいや。出発するで」
「ネコちゃんは?どうするの?」
 キーゴはヨナキネコを抱きしめた。
「どうする?お前どうするもこうするもあるか!そんなもんここに置いてくに決まっとるやないか」
 ジヴはすわとキーゴの方に向き直ると、目を見開き、脅すように言った。
「連れて行ってどうすんねん?こいつが何の役に立つ?足手まといはお前だけで十分や!それにこいつは肉食なんやで。今はいい子のフリして、いつ襲ってきよるか分からん!」
「足手まといなんて、ひどい…」
 キーゴは傷付いた様子で目を伏せた。 
 ジヴは傷付いたキーゴの顔を見て、少し言い過ぎてしまったと思ったが、今さら後には引けなかった。
「…それに逆にや。連れてったところで、こいつに何してやれんねん?傷薬はもうないしな。餌の肉はお前が狩ってくるんか?言っとくけど、俺はやらんからな!」
 ジヴは腕を組み、キーゴたちに背を向けて座り込んでしまった。
「でも…」
「でもも何もあらへん」
「でも…でも」
「でもでもうるさい!」
「だって…」
「でももだっても同じや、あかんもんはあかん」
 ジヴはきっぱりと言った。
 それでもキーゴはヨナキネコをギュッと抱きしめたまま、動こうとしなかった。
「…」
「…」
「メェ〜」
 しばらくキーゴとジヴのにらみ合いが続いた。
「…」
「…」
「ベェ〜〜」
 先に口を開いたのはキーゴの方だった。
「分かったよ、ジヴ…この子を一緒に連れて行くのは諦める…」
「よーし!やっと分かったか。そしたらそのネコ床に置いてやな…」
「でも!一緒には連れて行かないけど、この子をお父さんとお母さんの所に帰してあげたい!」
「それから、もう後を振り返らんとダッシュで…って、お前何言い出してんねん!」
 ジヴはビックリしてキーゴの顔を目をまん丸にして見つめたが、キーゴの顔は真剣そのものだった。
「この子、このまま動けなかったら、ここで死んじゃうかもしれない。一緒には連れて行けなくても、せめて家族のところに戻してあげたいんだ」
「おま、何言っとるか自分で分かっとんのか!?ヨナキネコを家族に返す?ヨナキネコのところにわざわざ自分から乗り込んでいく言うんか?だいたいそのネコの親が今どこにいるかも分からんやろ?」
「それでも…僕はやるよ」
 キーゴはヨナキネコを先ほどより強く抱きしめ、ジヴをまっすぐ見返した。キーゴは頑なだった。
「あー、もう…お前というやつは…あー、くそ!勝手にせい」
 ジヴはくるりとキーゴに背を向けて四つんばいで出口の方に進み出してしまった。
「シヴ…?」
 キーゴはジヴの『勝手にせい』の意味がいまいち分からず、ジヴの名を呼んだ。
「なにしてんねん?俺は一刻も早くバナナ取りに行きたいねん。そんなヨナキネコの迷子に付き合わないかんのなら、さっさとこんなとこから出て、ちゃっちゃと親見つけて先を急がなあかんやろ!」
 そう言うと一人でリュックを背負い、さっさと穴の出口から出て行ってしまった。
「ジヴ!」
 キーゴはヨナキネコを抱えたまま必死で追いかけ、ヨナキネコごとジヴの背中に抱きついた。
「ありがとう!」

  21、家族を探して

 嵐が去った後の森はどこもかしこも雨露で光り、そよ風が草や土の湿った匂いを運んできていた。  
ジヴはヨナキネコを自分のリュックの中に頭だけを出させる形で入れ、背負いながら歩いていた。
「ネコちゃんの名前を決めないとだね〜」
 キーゴはうきうきした様子で言った。
「あかん。すぐ家族見つかるかも知れへんのに。名前なんか付けたら情が移ってしまうやろが」
「んもう、ジヴは冷たいんだから」
「冷静なだけや」
 しかし、実際のところ、この広い森ですぐ家族が見つけられる当てはなかった。
「うーむ…」