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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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「せや。だけど、人間らからすると、話は真逆や。森には凶暴な人食いトロルっちゅうモンスターがいて、女子供容赦無く食いよる。そのせいでおちおち森には近付けないって、なるわけや」
「うーん…そうだよね…」
 キーゴは複雑な顔で頷いた。
「そやろ?そやから、森にはよくオトンを退治するだけの目的でハンターがやってくることがあった。ま、うちのオトンはだいたい返り討ちにしてたけどな。だけど、ある日、…やられてしもうたわけや」
「そんなに強い人がいたの?」
「いや、別にかかってきた人間が強かったわけやない。そいつらなんとな、大砲持って来てん。それごと茂みに隠れておいて、オトンが通りかかったところをズドン!や」
「ひどい…」
「うちのオトンは猟銃で撃たれたくらいなら、かすり傷くらいに思とるからな。それくらいせなあかん思ったんやろな」
「あんまりだよ、それ」
 キーゴは憤まんやる方無いといった様子で首を思い切り左右に動かした。
「まあ、そいつらは自分たちの故郷で英雄になる前に、事態を知って怒り狂ったうちのオカンにやられてしもうたらしいんやけど。うちのオカン、キレるとめっちゃ怖いねん」
「お母さん、敵討ちしたんだね」
「まあ、そういうことになるな。なんとなくやけど、この頃からオカンは俺に人間の肉食え肉食え余計言うようになった気がするわ」
「そのハンターさんたちだけじゃなくて、人間全体が許せなくなっちゃったんだね」
「せやな。もうあの頃はオカンめっちゃ荒れとったしな。『たかが食い物の分際でオトンのことダメにしくさって!』ってな」
 聞きながら、キーゴは口をへの字に曲げ、思い詰めたような顔になった。
「きっと…きっと僕がジヴのお母さんの立場でも、許せなかったと思うよ」
 ジヴはそれを聞いて、キーゴの頭をポンと優しく叩いた。
「せやな。俺も、正直オトン殺した奴らは憎いで。オカンも絶対忘れることは出来へんって言うとる。でも、最近は少し違ってきてんねん。うち出る前に家探ししたやろ?あの時な、地図のこともそうやけど、オトンの遺品なくなっててん。あれ、ようやくどっか吹っ切れたんやないかな、と思ってんねん。今までだったら、オトンの物はたとえ髪の毛の一本でも捨てようとせえへんかったからな」
「そうなんだ…」
 キーゴはぽつりと呟くように言った。
「…」
「……」
 その後二人はしばらく何も言えず、なんとなく気まずいような空気が流れた。
「えーと、あ、ねぇ、ジヴ、っていうことは、ジヴは一人っ子なんだよね?羨ましいなぁ」
 キーゴは慌てて話題を変えた。
「なんや羨ましいんか?」
「だってお父さんのこともお母さんのことも独り占め出来るんでしょう?」
「なんやお前構って欲しいんか?」
 ジヴは鼻で笑った。
「うちは兄弟が多いし、忙しいから…代わりにお姉ちゃんが少し構ってくれたりもするけど、一度お父さんとお母さんが僕だけにつきっきりって状況になってみたいな」
 キーゴは無邪気に言った。
「そんなにいいものでもないねんで。子ども一人しかおらん言うことは、期待が一点に集中するいうことやしな…」
 ジヴはそこまで言って急に口ごもった。
「まあ、兄弟おってもあんま変わらんかったかもしれへんけど…」
「そういえばジヴのお父さんはみんなの憧れだったんだもんね!」
「そうや、ヒーローや。まだガキのトロルが人間に撃ち殺されそうになったのを助けたこともあんねんで!」
 キーゴからジヴの顔ははっきりとは見えなかったが、口調から、ジヴが誇りと嬉しさを感じていることはよく伝わってきた。
「ジヴ、立派なお父さんの子どもに生まれてこれてよかったね!」
 キーゴは純粋な気持ちで喜んだ。
「立派な父親の…それは俺が普通のトロルやったらの話な…」
 そこでまたジヴは口ごもってしまった。
「ジヴは普通のトロルでしょ?」
 キーゴが不思議そうに尋ねた。
「普通の『人食いトロル』だったらっちゅう意味や!人間の肉食えへんなんて腰抜け以外の何者でもあらへん」
「ジヴ…」
「人はな、親がいいとなおさらみんな『あのオトンの子どもなんやから、優秀に決まってる』思うもんやねん。ところがどうや?その自慢の息子は『超草食系男子』、学校のみんなから笑われまくったわ」
「トロルの学校なんてあるの!?」
 キーゴはびっくりして思わず振り返った。
「あくまで学校みたいなところ、やけどな。大人のトロルは滅多にお互いに交流せえへんけど、ガキのトロル集めてな、人の襲い方、脅かし方、追い込み方、いろいろ習うねん」
「へぇー」
「で、弁当の時間になるやろ?みーんな、俺の弁当見よる。一番最初は、あのオトンの子どもやからさぞかしええもん食ってるに違いないって見に来た連中が、二回目以降からはただただ笑いに来るだけや。なんせ、俺の弁当だけ…キャベツやったからな」
 急に嫌な思い出が蘇ってきたのか、ジヴはため息をつき、片手で顔を覆った。
「毎日毎日何かにつけ俺のこと『青虫青虫』しつこく言ってきよる奴がおってん。一度そいつのことキレてボゴボコにしてしもうてな。そのまま学校飛び出してしもうた。それ以来、学校にもあんまり行かんようになったんや」
「…お友達はいなかったの?」
 キーゴはフォローを入れるつもりで言ったが、ジヴには逆効果だった。
「お前話聞いてたか?そんなんで友達なんか出来るわけあらへんやろ」
「そっかぁ…」
「なんや落ち込んどるやないか」
「うん…うちは学校に行く余裕ないから、学校ってきっと楽しいことばっかりだと思ってたんだ。立派な大人になる為に勉強して、友達と遊んで…でも、そればっかりじゃないんだね」
 キーゴはため息をついた。
「あほ、学校っちゅーのはただのガキの集まりや。あとはセンコウが何人かおる。そんだけやで。俺なんか学校あんま行かへんでも、こうして立派な大人になったわ」
 ジヴが胸を張って言った。
「学校行ってなかった時は家で何をしてたの?」
「あほ、家なんかおったらオカンにどんな目にあわされるか分からへん。とりあえず、朝は弁当持って外出るねん」
「それから?」
「…俺は、人間とこ行っとった」
「僕らのとこ?」
「そうや。でもな、ギリッギリ森から出んようにして、いつも茂みに隠れてな、ガキらが遊んでるとことか、おばちゃんが洗濯物持ちながらペチャクチャしゃべってるのをじーっと聞いとったわけや」
「なんのために?」
 キーゴが不思議そうに尋ねた。
「そうやなぁ…言ってしまえば怖いもの見たさやな。あの頃はまだオトン殺されてそんなたっとらんかったし、人間がどういうもんか、見てみたくなってな。その内言葉も分かるようになってしもてん」
「ああ!だからジヴは人の言葉が分かるんだね!」
 キーゴは合点したとばかりに手を叩いた。
「そうや。発音が少しちゃうから、おまえんとこの村の言葉ではなさそうやけど。けど、もう会話に関しては結構ベテランやろ?」
 ジヴは得意げな顔をしたかと思うと、自分の話は終わったとばかりに、口から大きな息を吐いた。両腕を後ろに回し、上体を反らせる。
「なんや…なんか」
「なあに?」
「こう…ため取ったもん全部吐き出すのってすーっとするな」
「うん、そうだね」