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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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 トウメイバッタも強い雨にもめげず、前からも後ろからも襲いかかってくるようになった。ジヴは必死に片手でバッタたちを追い払うが、焼け石に水だった。
「…っだー!キリがないわ。びしょ濡れや」
 ジヴは息を切れ切れにさせながら言った。
「お前、なんかどっか隠れられそうなとこ見えへんか?俺今ほとんど目開いてないねん」
「えーと、えーと…」
 キーゴはバッタが前に来ていないタイミングを見計らって、少しだけジヴの腕から身を乗り出した。
「…あ、あった!あそこの大きな木の根っこの間、入れそうだよ!」
 キーゴが指差した方を苦労して見ると、大木の根に、いびつな隙間が出来ているのが見えた。
「まあ、なんやちょっと俺には狭そうやけど、この際しゃーないな」
 ジヴはそう言うと、根の隙間に向けて一目散に走り出した。
「うぉーー!」
 ジヴはまだ何匹かのバッタたちが背中に張り付いているのも構わず、根の入口に滑りこんだ。
「スライディングセーフや!」
 ジヴたちが穴に隠れると、トウメイバッタの大群たちはそのまま真っ直ぐどこかへ飛んで行ってしまった。
「助かったー」
「…みたいやな」
 二人は安堵のため息を漏らした。

  17、穴の中

 ジヴたちが滑り込んだ穴は、入り口こそ狭いものの、入ってみると意外にも広さは十分にあった。
 ジヴは手をついて座り直すと、両足を伸ばした。キーゴも今まで抱えられていたジヴの膝の上から立ち上がった。
 明かりもない嵐の中なので、穴の中がどうなっているのか暗くてよく分からなかった。
 外では雷が鳴り始めたようで、時折光る稲妻に照らされて、ジヴたちの顔は青白く光った。
「奥、行ってみるか?」
「えー、怖いよ。やめておこうよ」
「そやけど、もう少しくらいは中進んでもらわんと、俺の頭にまだ雨かかってくんねん」
 そう言われて仕方なく、キーゴはジヴの両足がまるで橋か何かのように恐る恐るバランスを取りながら、二三歩前に進んだ。
「ビビリやなぁ」
 ジヴはそんなキーゴの背中を笑って手で押した。
「やめてよ、ジヴ」
「大丈夫やって。何にもおらへん。…多分な」
 そう言ってジヴは上体をぶるぶると振るわせ雨を払うと、今度はずぶ濡れの両足を手で絞った。そしてキーゴを降ろすためにお尻を使って前にずって行った。
「わ!とととと…」
 キーゴはバランスを失い、仕方なしにジヴの足から降り、自分も服や体に付いた雨露を落とした。
「にしても暗いな〜。火打石持っとっても木が湿っとたら火も使われへんしな」
「ジヴ〜、体の方は大丈夫?」
 膝から降りたキーゴはジヴの体を確かめるように、触りながらジヴの背中の方へと回った。
「ごめんね、いつも僕のせいで…」
 ジヴのまだかすかに濡れた毛に埋もれた背中を、キーゴは優しく撫でた。
「こんなんじきに治るわ。図体デカくてもあいつらしょせんバッタはバッタや。痛くも痒くもあらへん。心配すんな」
 ジヴはあえてそっけない口調で言った。「嵐のこと言い忘れてて、ごめんなさい」
 キーゴはジヴの背中に体を埋めると、ジヴの前に立ってうつむきながら言った。
「なんや改まって」
「僕が先に嵐のこと言ってたら、ジヴ、こんな目に合わなかったよね」
「別にもうええわ。『こんな目』なんて、今まで何回見てきたと思ってんねん。それよりバッタ見れたやろ?良かったやないか」
 ジヴは少し意地悪そうに笑った。
「…うん。たくさん…たーくさん見たよ。でも、もう二度と見たくないや!」
 キーゴはそう叫ぶと、両手を上に上げ、そのままバッタリと後ろに寝転んだ。
 外は激しい雨音と、恐ろしい雷鳴とが聞こえるばかりだった。
「降っとるな〜」
「…ねぇ、ジヴ?今日はここにお泊まり?」
「そうやな。ここからまた移動いうのもしんどいし、今日はここで寝よか」
「じゃあじゃあ、何かお話してよ!」
「お、お話〜!?」
「だってここ真っ暗で、何も見えないし、眠るまではまだ時間あるし、退屈しちゃうよ」
 キーゴは起き上がり、今度は手探りでジヴの腿の上まで移動した。
「あほ。お話て…俺はお前のパパとちゃうねんぞ。子ども用のおとぎ話なんか出来るか!」
「違うよ。おとぎ話なんかじゃなくて…僕、ジヴの話がいいよ」
「はあ!?俺の話ぃ?」
 びっくりしてジヴが聞き返した。
「うん!この前僕の話したから、今度はジヴの話がいいよ」
 ジヴは困った。自分の話と言っても、何を話していいか分からなかった。
「言うてもなぁ〜、俺に関する話て面白いものなんか、全くあらへんで」
「いいよ、面白くなくて」
「どっから話していいかも分からへん」
「じゃあ、僕が質問していくから、それに答えて」
「面倒やなぁ。まあ、ええわ」
「わーい!じゃあ…まずは…」
 そうやって二人の問答が始まった。

18、ジヴの過去

「なんか一人楽しそうなとこ申し訳ないけどな。俺の話なんか、ほんましょーもない話しかないで。ほんましょーもないわ」
「えー、いいよ〜。しょーもない話、楽しそうだよ〜」
「あんな、しょーもない話っていうのはおもろないからしょーもない言うねんで。おもろい話やったら…」
「いいからいいから!それともジヴは人に言えない秘密でもあるの?」
「……」
 キーゴがそう尋ねると、ジヴは黙ってしまった。
「ジヴ…?僕何か悪いこと言っちゃったかな〜?」
 外で雷鳴が轟き、その光でジヴの顔が少しの間だけ映し出されると、ジヴは親指と人さし指の間に顎を挟んだまま、なにやら考え込んでいるようだった。
「別に悪いことは言うてへんけど…んー、まあ、よし、分かった。なんでも話したろやないか。その代わり、ほんま」
「しょーもない話なんでしょ。大丈夫だよ」
 キーゴは笑顔で言うと、ジヴの太腿に腰掛けた。
「よし!じゃあね〜、何から訊こうかな?うーん、ジヴのフルネームは?」
「ジヴ・マーガスステニーやけど」
 それを聞いた瞬間、キーゴは吹き出した。
「え、それ本当に!?」
「なんや。なんか悪いんか!」
「そんなことないよ。かっこいい」
 そう言いながら、キーゴはまだクスクス笑っていた。
「人の名前のことはもうええ。はい、次!」
「うーんとね、じゃあ、何人家族?」
「今は二人やな」
「昔は?」
「おとんが生きとった時は三人」
「お父さん、死んじゃったの?」
 キーゴが悲しげに尋ねた。
「ああ。俺がまだガキの頃に、人間たちに殺された」
 その言葉にキーゴは息を飲んだ。返す言葉が見つからなかった。
「これがまあ、しょーもない話の内の一つやねんけど…」
「そっか。ごめんね。こんな話聞いて」
 キーゴは俯いて、頭を垂れた。
「ほらな、だから嫌やねん。なんかこういう…湿っぽいの、苦手やねん」
 ジヴは少し慌てたように言った。
「別にもう十何年も昔の話やし、オトンはオトンで人を殺しまくった。恨まれて当然や。人間どもからはな」
 キーゴが悲しそうに地面を見つめた。
「でも、俺らトロルからしたら、うちのオトンは図体はでっかいわ、運動神経抜群だわ、もうみんなの憧れ、ある種ヒーローやったわ。人間が何人来ようが怯まず全員なぎ倒してその日の分の飯いっちょ上がりや。それを分け隔てもなくみんなに分け与えてん」
「…優しかったんだね」