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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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 その時の話をするキーゴは心底悲しそうな顔をしていた。
「そうしたらある日、お兄ちゃんが七色のバナナの話を僕にしてくれたんだ。それで『キーゴは神様がついてるから絶対無事にバナナを取ってこられる。そうしたら母さんも良くなる』って」
「それで朝からふらふらふらふらその辺さまよっとったわけやな。つーか、上の兄ちゃんも悪魔の子ゆうといて、そんな時だけ調子ええな」
 ジヴは小さく鼻をふんと鳴らした。キーゴは自分の兄に上手くのせられたのだと思ったのだ。
「というか、そんな口車乗ってのこのこ森に入ってくるお前もお前や。俺がオカンやったら、その話聞いたらぶん殴ってでも止めたるわ」
「うん、だから僕もお母さんに止められないように真夜中にこっそり出てきたんだ」
 そう言うと、キーゴはにっこり微笑んだ。「お兄ちゃんに言われたこともあるけど…僕はお母さんの為に何かできるって分かって、嬉しいんだよ!」
「……」
 思わずジヴは言葉を詰まらせた。そしてキーゴの頭に手をポンとのせると、
「寝よか」
 ポツリと呟いた。
「苔の毒は平気か?」
「うん、最初くらくらしたけど、今は平気」
「なら大丈夫やな。今日はゆっくり休んどけ」
「でも、昼間いっぱい寝たから眠れるか分かんないよ」
 キーゴはクスクス笑いながら言った。
「いいからはよ眠れや」
 ジヴは自ら先に横になり、キーゴに背を向けた。
「…おやすみ」
 幾千の星々と、徐々に消えてゆく焚き火だけが二人を温かく見守ってた。

  16、トウメイバッタと嵐の夜

 そうやって数週間が過ぎた。途中ジヴたちはいろいろな経験をした。
 実が大量になったキバリンゴの木を発見し、それにキーゴが指を噛まれそうになったり、(キバリンゴはまだ熟していない実をもごうとすると噛み付くのだ。)キーゴが初めてジヴの為に川魚を捕まえて見せたり、(それには三時間ほどかかった。)ツタかと思って引っ張ってみたのがツルノコブラだったり…。
 そうしていくうちにキーゴもジヴもすっかり森での野宿生活に慣れていった。
「まあ、アレやな、結局トロルより強い獣なんかここにはおらへんし、楽勝やな。案外バナナ取るのも簡単なんちゃうん?」
 ある朝、ジヴは上機嫌で言った。
「ジヴはすぐに調子に乗るんだから〜。でも僕も最初は怖かったけど、最近はわくわくしてるよ。森には知らない生物がいっぱいなんだもの」
 そう言って、キーゴはあたりをキョロキョロしながら歩いていた。
「だからってあんまうろちょろすんなや。ええか、お前は俺がいるからここまで生きてこれてんで?いなかったらもうとっくの昔に…」
「ねー、ジヴ〜」
 キーゴがジヴの話を遮って話しかけてきた。
「お前人の話は最後まで…」
「なんかこの木変だよー」
「聞いてへんな…」
 ジヴが諦めてキーゴの方を見ると、キーゴの手が木の幹の側面から、少し浮いた所に置かれていた。
「ここ、何かいるよ?何か〜…動いてる?」
「んー?」
 ジヴは目を凝らしてキーゴの手を見つめた。確かにキーゴの手はキーゴ自身が動かしていないのにも関わらず、上下に動いていた。
「あー、トウメイバッタやな」
 ジヴは即答した。
「多分そこに一匹おるっちゅうことは、どっかしらに何十匹かおるわな」
 キーゴはあたりを見回したが、ジヴが言う『トウメイバッタ』は透明で、姿形が全く見えなかった。
「ようするにひたすらでかい全く目に見えへんバッタなんやけど…」
「これ、大きいの?」
 キーゴがバッタがいるであろう位置を撫でて確かめようとした。
「あ、どっか行っちゃった」
「羽音がしたから、まだその辺の地面におるやろ。実際成虫になると、五十センチくらいあんねん。懐かしいなぁ、よう子供の頃これ捕まえて遊んどったわ」
 ジヴは懐かしむように地面を見つめた。「見えないバッタさんなのにどうして捕まえられるの?」
「それはやな。こいつらは一見透明やけど、水をかけると姿が周りから見えるようになるねん。せやから、いそうやな、と思ったところに水かけんねん。こいつらはだいたい群れで行動しとるから、一ヶ所ぶっかけたら実はかなりの数おったりしてな。びっくりするで」
「えー、僕も見たいなー」
 キーゴは羨ましそうに言った。
「水があったら出来んねんけどな。水筒の水はもったいし、それに…」
「お水?お水があったら見れるの?」
「ああ、見れるけどもやな…」
「それなら大丈夫!もうすぐ嵐が来るからね!」
「な、何!?」
 ジヴが叫んだ途端、淀んでいた雲の間から、ポタリ、またポタリと雨粒が落ちてきた。
「ほらね、言ったでしょ?」
 嬉しそうに言ってから、下の方を見つめた。どうやらトウメイバッタの姿を探しているようだった。
「おい!」
 しかしジヴはそれどころではなかった。
「嵐が来るって、なんでそれ早く言わなかったんや!」
「えー、この前言ったと思うけど…」
「お前のこの前はいつやねん!」
「ニ週間…前?」
「どあほ!」
 そんなやりとりの間にも、雨足はどんどん強くなっていく。
「あ、見て!トウメイバッタの胴体が少し見えてきたよ!」
「あー、もう!二重に最悪や」
「…?どういうこ…」
 キーゴが言い終わらないうちに、ジヴはキーゴの首根っこを掴んで抱えると、そのまま走り出した。
「え、なーに?どうしたの?せめて全身が見られるまでいたかったよ」
「うるさいわ!今に嫌というほど見られるから黙っとき!」
 ジヴがキーゴを叱りつけたのと、それはほぼ同時だった。ヴヴヴィーーーバタバタバタバタバタバタ…。何かがこっちへ飛んで来る音がした。
「あー、来てもうた」
 それはとてつもなく大きなバッタたちの大群だった。ギラギラと光った眼、か細い枝だったらそのまま噛みちぎってしまいそうな歯。不思議な羽音を生み出す立派な羽。それが百匹から二百匹、群をなして向かってきたのだ。その恐ろしい光景はまるでバッタの行軍のようだった。
「すごい数!」
「こんなにどこにいてんねん!?仕方ない。一旦来た道戻るで」
 そう言って、ジヴはユーターンしながら全速力で逃げ出した。
「あいつらはな、普段は葉とか枝とか食ってるだけの大人しい〜奴らなんやけど、とにかく水が嫌いやねん。」
 ジヴは走りながら説明した。トウメイバッタの大群は見る見るうちにジヴとの距離を縮めてくる。やがて、七匹ものトウメイバッタがジヴの背中に噛みついたり、体当たりをしてきた。
「どうして〜?ジヴはなんにもしてないのに」
「これは俺がどうこうじゃないわ。こいつらひたすら雨から逃げ惑ってるだけやねん。見てみい」
 ジヴが顎で刺す方を見ると、上空からものすごい勢いで下降してきたトウメイバッタが次々と木に激突しては墜落していった。
「あいつらのパニクりようがよう分かったやろ?にしても、痛いわー」
「ジヴ、ごめんね。いつも運ばせてばっかりで」
 キーゴが申し訳なさそうに言った。
「しゃーないわ。お前こうしてなかったら、確実にバッタに腕食いちぎられるからな。俺の『未来の弁当』が減ってしまうわ」
 ジヴが減らず口を叩いている間にも、雨はどんどんと激しさを増し、目も満足に開けていられないほどになった。