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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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キーゴはなおも解けない腕を必死に振りほどこうと体を激しく左右に揺らした。
「言うことを聞け!」
 その声とともにキーゴの後頭部と太ももにビリッと電流のような痛みが走った。帽子の男がキーゴを地面に叩きつけたのだ。その拍子にバナナがキーゴの腕からごろりと地面に転がった。
「いいか。本当はお前なんか生きてても死んでいてもどっちだっていいんんだ。トロルに襲われたことにすれば言い訳は何とでもなるんだからな。それに、バナナさえありゃお前なんぞいなくても充分にお釣りがくる」
帽子の男は地面に倒れこんだキーゴが動かないよう、銃を突きつけた。
「おい、お前はいったい何をぼさっと突っ立ってんだ。バナナだ。早く回収しろ」
「おう。そうだな」
キーゴに銃を突きつけながら、帽子の男は顎をクイッと持ち上げ、口ひげの男に指示を出した。
「やめて!バナナに触らないで!」
キーゴは口ひげの男に向かって叫んだ。しかしその叫びもむなしく、口ひげの男はキーゴの手から離れてしまったバナナを素早く拾い、脇に抱え込んだ。
「あーー!返せ!バナナ!バナナ返して!」
 キーゴは銃が自分に向けられていることも忘れ、慌ててバナナを盗んだハンターの下へ駆け寄ろうとした。
「おっと、これの存在を忘れたのか?人食いトロルの生け取りには失敗したが、バナナも手に入れたし、お前はもう用済みだ。帰ってから余計なことを話されても面倒だしな。しかし、ここで大人しく黙って俺たちに付いて来るなら命だけは助けてやる。さあ、どうする?」
 ハンターは銃口を見せ付けるように構えながら一歩一歩キーゴに近付いてきた。
「僕は…」
 キーゴはかすかに震えながら、しかしきっぱりとした口調で言った。
「僕は…行かない」
「そうか。それじゃさよならだ」
 帽子の男が銃の掛け金を引いた。
「ジヴ…!お母さん…!」
 キーゴが身を硬くし、ぎゅっと目をつぶった、その時だった。
「メェー…」
どこからかツノオレヤギの鳴くような声がした。かと思うと、ハンターたちが現れた向かい側の茂みから、ヨナキネコの子どもが姿を現した。
茂みから出てきたヨナキネコの子どもは、キーゴの方に顔を向けると、首を軽く振り上げ、再会を喜ぶかのようにもう一度高く「メェー」と鳴いた。
「君は、もしかして、あの時のネコちゃん…?」
「ん?なんだ?お前のペットか?」
帽子の男が銃を構えながら、顔だけをヨナキネコの方に向けた。
「ネコちゃん、危ないから来ちゃだめだよ」
キーゴは必死で追い払う仕草をした。
「ネコのチビなんかどうだっていいんだ。さぁ、こっちのちびちゃん。覚悟し…」
 帽子の男が言いかけた時だった。
「メェー」
「ヴェー…」
ヨナキネコの子どもが現れたのと同じ茂みから、また先ほどと同じような鳴き声がした。
「ん?鳴き声が増えた…?」
「お、おい、横を見てみろ!やばいぞ!」
「ん?」
口ひげの男が指差す方を見ると、ヨナキネコの両親が、茂みから顔をのぞかせていた。身を低くし、今にも飛び掛らんばかりの勢いでうなり声を上げている。
「ま、まずい!」
帽子の男が照準をキーゴからヨナキネコの家族に向けた瞬間、
「「メェーーーー!」」
 ヨナキネコの両親が目にも留まらぬ速さでハンターの二人に襲い掛かった。
「う、うわぁーー!」
「くっ、ひるむな!こっちには銃があるんだ!」
 帽子の男は素早く照準を自分に襲い掛かってきたヨナキネコの父親に向けると発砲した。
しかし、ヨナキネコの父親はそれをすんでのところでかわした。
すると今度は牙をむき出しにして大きく『バーッ!』と吼えたかと思うと、硬い蹄で帽子の男の腕を引っかいた。
「うっ!」
 その途端、帽子の男は持っていた銃を地面に落としてしまった。
「ほらっ!あっち行け!この野郎!」
 口ひげの男を見れば、ヨナキネコの母親に組み敷かれ、銃を棒のように振り回しながら抗戦していた。
「ヴェーーーー!」
ヨナキネコの母親が口ひげの男を押し倒したまま大きく鳴くと、男は「ひ、ひぃー!助けて!」と情けない悲鳴を上げた。
そしてなんとか身をよじってヨナキネコの母親から逃れると、落としたバナナには目もくれず、一目散に走り出した。
「あ、おい。待て!お前どこに行くんだ!」
帽子の男は怪我をした左腕に手を当てながら口ひげの男に向かって怒鳴った。そしてしばらくキーゴをにらんでいたが、ヨナキネコの父親に尻を噛まれそうになると、慌てて両手で尻をかばい、逃げ回った。
「ネコちゃんのお父さんとお母さん、強いんだね!」
 キーゴは感心したように言った。
「くそ、こんな目に会うなんて…!出直しだ」
ヨナキネコの父親に尻を噛まれた帽子の男は最後にそう言い残すと、口ひげの男の後を追いかけるように逃げていった。ヨナキネコの両親も二人の後を追い立てるように追いかけていった。
「ネコちゃん、助けてくれたんだね」
キーゴが擦り寄ってきたヨナキネコの子どもの頭を撫でた。
「ヴェ~」
ヨナキネコの子どもはキーゴから体を離すと、口ひげの男が落としたバナナのところまで駆け寄りった。そしてその前に座ると、頭でキーゴの方にバナナをずらした。
「うん。そうだね、ネコちゃん」
キーゴはヨナキネコの隣まで行き、バナナを抱き上げた。 
そしてジヴの方を振り返り、キッとまじめな表情になると言った。
「待っててね。ジヴ!」

  40、バナナの効果

 キーゴはバナナを抱え、再びジヴの方に駆け寄った。改めてジヴの撃たれた傷口を見ると、そこからはだらだらと血が流れ始めていた。
それを見たキーゴはバナナをいったん地面に置くと、ためらうことなく自分の服を破り、傷口に押し当てた。しかし、破いた服に血がどんどんにじんでいくだけで、血は止まりそうもなかった。触れているジヴの体がどんどん冷え込んでいくのが分かった。
「ジヴ…。お願い、止まって!」
 キーゴは今度はバナナの方に目を落とすと、意を決したようにバナナを抱え上げた
「ごめんね、お母さん…」
 七色のバナナはそのどれもが取ってきたときと変わらぬ透明な輝きをしていた。
 キーゴはその中の茶色のバナナを房からもぐと、素早く皮をむいた。半透明に輝く皮を地面に捨てると、中の身は透き通るようにように真っ白に光っていた。
キーゴはそれを、ためらうことなく両手でぐちゃぐちゃに握りつぶした。そうすると、すぐにバナナは白いべたべたした物体になった。
『神様、お願い…!』
 キーゴは心に強く念じながら、両手のバナナを落とさないようにしてジヴの胸の上に上った。そして自分の両手ごと、バナナをジヴの開いた口の中に押し込んだ。そうして出来るだけ口の奥のほうに押し込むと、いったんジヴの体から降りて、今度はジヴのあごを両手で力一杯押した。
途中までそれを見ていたヨナキネコの子どもも一緒になり、頭でジヴのあごを押し始めた。
次にキーゴはジヴのあごに対して背を向けると、今度は体全体でジヴの口を閉じにかかった。 
そしてそのまま二人はあごを押し続け、ジヴの頭を後ろにのけぞらせた。すると、ジヴののどがかすかにゴクンと鳴り、液状になったバナナが、ジヴののどの奥までゆっくりと入っていった。
「ジヴ…お願い、目を開けて!」