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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

INDEX|21ページ/21ページ|

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ジヴの体から降りたキーゴは、耳元で祈るようにジヴに語りかけた。
しかし、しばらくは何も起こらなかった。キーゴは傷口とジヴの顔を何回も交互に見たが、特別変わった様子は見られなかった。
「そんな!バナナ効かないの?なんで?」
キーゴは泣きながら必死になってジヴの傷口を服の切れ端で押さえた。
「メェーヴェー」
ヨナキネコも鳴きながらジヴの頭の周りをぐるぐると回った。
「そんな…嫌だよ。ジヴー!」
 キーゴはジヴの脇腹に顔を埋めながら泣き叫んだ。
すると不思議なことが起こった。ジヴの体が徐々に温かくなってきたのだ。
キーゴがその温もりにハッとして顔を上げると、ジヴの左胸の出血が止まっていた。そればかりか、弾丸で出来た胸の穴が見る見るうちに盛り上がっていき、最後には埋まっていた弾丸が地面にころりと転がった。
「ジヴ…!」
 キーゴが歓喜の声を上げた時、ジヴのまぶたがぴくんと動いた。

41、大団円

意識が戻った後、ジヴが一番最初に見たものは、目に涙を浮かべながら、心配そうにジヴの顔を覗き込むキーゴの姿だった。
「ここは?俺何で倒れて…?」
ジヴは頭が混乱し、キーゴをぼんやりと見つめた。
「ジヴ!?ジヴ!?大丈夫?どこか痛いとこある?」
「キーゴ…」
キーゴの声にジヴは徐々に意識がはっきりしてきた。
「キーゴ。キーゴ!あいつらは?お前無事やったんか!?今は何がどうなって?」
「落ち着いて、ジヴ」
僕なら平気、とキーゴは優しく微笑んだ。
「でも、あいつらは?」
「あの人たち、ジヴを撃ったんだ」
キーゴは静かに怒りを押し殺したような声で答えた。
ジヴはキーゴにそう言われ、先ほど恐ろしい痛みが走った箇所を手で触ってみた。しかし、不思議なことにそのような傷は全く見当たらない。戸惑うジヴにキーゴは続けた。
「それであのおじさんたちが、僕の方にも来たから、僕ももう駄目だって思ったんだよ。でもそしたらほら、あの子たちが追っ払ってくれたの」
キーゴが「あの子たち」と言った視線の先を見ると、以前助けたヨナキネコの家族達が佇んでいた。
家族達はジヴが無事だったのを確認するかのようにジヴの前に座り込んだ後、「メェー」と一鳴きしてすぐさま茂みへと姿を消してしまった。
「あの時のお礼かな?」
キーゴはヨナキネコたちが消えた方角に向かって、かすかに手を振った。
「不思議なことも、あるもんやな…」
ジヴもポツリと呟いた。
「そんなことよりもジヴ!?傷口はどうなの?痛くない?」
キーゴが焦りながらジヴの体を小さな手ででぺたぺたと触った。
「俺…ほんまに撃たれたんか?記憶が途中でなくなっとるし、そもそも傷自体どこにもあらへん」
「良かった…バナナが効いたんだね!」
「は?バナナ!?」
自分が撃たれたことでその存在を忘れていたが、ジヴがバナナを探してあたりを見回すと、キーゴの真後ろにバナナはきちんと存在していた。
しかしその本数は数えてみると六本しかなかった。そしてジヴの口の中には甘いような少し苦いような不思議な味が残っていた。
「僕がおじさんたちがいなくなったあと、つぶしてジヴの口に押し込んだんだよ。ちゃんと飲めてるか心配だったけど…」
それを聞いたジヴは大声を上げた。
「あほ!なにやっとんねん!このバナナでお前のオカンの病気治す言うてたやんか!」
「うん…」
ジヴがそれを言うと、キーゴは悲しそうにうつむいた。
「でもいいんだ。僕一人じゃ結局バナナは絶対に手に入らなかったし。あの茶色いバナナはジヴのものだったよ」
そう言うと、キーゴは起き上がったジヴの太くて毛深い腕を思い切り抱きしめた。
「良かった。ジヴが助かって僕本当に嬉しいよ」
ジヴは嬉しさにしばらく何も答えることが出来なかった。ただしばらく反対の手でキーゴの頭を優しく撫でた後、
「あんがとな、キーゴ」
と、ポツリと呟いた。
「それでね、ジヴ」
キーゴはジヴに頭を撫でられながら顔を上げて心配そうにジヴに尋ねた。
「今、ジヴは僕のこと食べたい?」
「は?何言うてんねん?」
「だってバナナを食べたから…」
そう言えば、ジヴの本来の目的は「茶色のバナナを食べて人の肉が食べられるようになること」だった。  
ジヴは少しの間キーゴをまじまじと眺めていたが、やがてふっと笑ってこう言った。
「あかんな。吐き気がするわ。一度に病気とけがの両方を治すのは無理みたいやわ」
本当はジヴはとうの昔に、人の肉のことなどどうでも良くなっていたのだ。
「そう。良かった。僕、ジヴが起きた瞬間に『お弁当』として食べられちゃうのかと思ったよ」
キーゴは明らかにほっとしたようだった。
「お前も変な奴やなぁ」
そう言ってジヴはキーゴを膝に乗せ、それから思い切り抱きしめた。

42、その後

二人はその後、さらに森を進み、ついにキーゴの村との境界線近くまでやってきた。
「あ、ここ!来たときに通った道だよ!覚えてる!」
 キーゴははしゃぎながら指を差した。
辺りはもうずいぶん開けてきていて、少し先には人が作ったと思われる道が伸びていた。 
キーゴの後ろから付いてきたジヴは、その道を見て、少し切なそうな表情を浮かべた。
「俺は…もうこれ以上は行かれへん。もうお前一人で帰れるな?」
「うん!大丈夫だよ」
キーゴは振り返りながら元気よく返事をした。ジヴはそれを聞くと、リュックに入れておいた残りのバナナを取り出し、キーゴに差し出しだ。
「ジヴ?」
「持ってき」
「本当にいいの?」
 六本のバナナを受け取ったキーゴは、ジヴをまっすぐに見つめ、尋ねた。
「ああ、もう俺は先に一本食ってしもうたからな。残りのやつは全部お前のや。好きにしたらええ」
 キーゴはしばらくバナナを見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「…ありがとう。ジヴ。これを売ったら、お母さんにお薬が買えるかもしれない」
 そしてキーゴはこれ以上ないほどの笑みを浮かべた。つられてジヴの顔にも、ほっとしたような、少し寂しげな笑みが浮かんだ。
「そしたら…またな」
ジヴはキーゴの頭に手を置くと、頭を思い切り撫でた。
「うん!絶対、またね!」
 ジヴに頭をくしゃくしゃにされながら、キーゴも笑顔で答えた。
 キーゴとジヴは、少しの間お互いに見つめあった。ジヴには気のせいか、キーゴが出会った頃よりずいぶん大人になったように思えた。
「それじゃあ、ジヴ。バイバイ!」
キーゴはその場で大きく手を振った。そして途中ジヴの方を何度も振り返りながら、自分の村へと走って行った。ジヴはそれを、優しげな目で見守っていた。
「…よっしゃ。ほんなら、俺も帰るか」
 ジヴはキーゴが村の方へ行ってしまったのを見届けると、一つ大きな伸びをした。
そして、母親に今までのことをどう話そうかと考えながら、笑顔で自分の家へと帰って行った。
《終わり》