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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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「あんな、俺たちからプレゼントがあんねん。お前さんの隣見てみ。きれいな花やろ?あんたの為に俺たちが必死こいて取ってきてん。それにこの海草、あんたが好きなヒラフサバナちゃうん?」
『一島の密林』は一瞬怪訝な顔をし、花々と海草の草に一瞥をくれた。そしてすぐに目を背けると、
「なんでお前さんがあたしの好物を知っているのか知らないが、その海草はヒラフサバナじゃなくて毒のあるアカカミナリグサだよ。似てるけどね。あともうあたしは歳も歳さね。若い時分ならともかく、きれいな花なんか興味ないよ」
そしてもう言うことはないと言わんばかりに、前足で這いずって行ってしまう。ジヴは焦った。
「ちょ、俺らどうしてもあんたに頼みがあんねん!」
ジヴが大声で言うと、『一島の密林』は振り返らずに言った。
「どうせお前さんたちもバナナが欲しいんだろ?見え透いたプレゼントなんか用意してさ。姑息さね。だからあたしは人間なんか大嫌いなんだ。あんたらにあげるもんなんかないね」
そう言って、来た時とは対照的にざぶざぶと派手な音を立てながら海に入っていった。
「そんな殺生なこと言わんと。なぁ!マージョリー!?」
ジヴがそう叫ぶと、『一島の密林』びっくりしたように振り返った。
「ラープス!?」

36、マージョリーの話

「毛むくじゃら!なんであんたがその名を知ってるんだい?」
『一島の密林』、いえマージョリーは前足と後ろ足をもたつかせながら、慌ててジヴたちのところに戻ってきた。
「あんな、俺毛むくじゃらじゃなくてジヴって名前があんねんけど」
「あと、僕はキーゴだよ。ねぇねぇ、やっぱりおばあさんはマージョリーなの?」
キーゴは突進してきたマージョリーに二、三歩後ずさりをしながら尋ねた。
「違うよ。ちび。あたしの名前はマーヴェルって言うんだ。あたしのこと『マージョリー』って呼ぶのはあの『物忘れのラープス』だけだよ」
「『物忘れのラープス』だって」
 キーゴはジヴを見上げて言った。
「ああ、間違いないな。あのじいさん、歳でぼけてたんやのうて、昔からあんなんだったみたいやな」
二人の話声もマージョリーには耳に入らなかったようだ。
「あたしは花が好きだったからね。それで『ああ、僕の可愛い一輪の花、マージョリー』ってね。それ以来あたしが止めろって言ったって、ずっとあいつは私を『マージョリー』って呼んでたんだ」
「でも、駆け落ちの途中で大砂嵐にあってはぐれちゃったんだよね?」
キーゴが言うと、マージョリーは目を真ん丸にして
「本当に詳しいね、あんたら。どこまで知ってるんだい?」
と言った。
二人は砂漠でラープスに会い、そこで話したことをマージョリーに言って聞かせた。
「そうかい、あいつはまだあたしのこと探し回ってんのかい。未練たらしい男だよ。あれから三百年は経ってんのにさ」
そう言いながら、マージョリーは先ほどまでは興味がないと言っていた、ジヴたちが用意した花の山を前のヒレでいじり始めた。
「行ってあげないの?」
キーゴは悲しそうに聞いた。
「ああ行かないよ。行きたくてももうあたしの体はガタガタなのさ。こうやって浜に上がるのさえ、最近は辛いんだ」
「冷たい奴やな。あんたが砂漠行きたいっちゅーて、はぐれといてからに」
「言ってくれるがね、あたしだってあの砂嵐せいでこの海まで飛ばされちまった後は、どうにかして砂漠まで戻ろうとしたさ。そりゃあもう何百回とね。でも結局だめだったんだ」
マージョリーはつらそうに眉根を寄せた。
「あたしゃ海亀だからね。ただでさえ陸での移動が難しい上に、海でないと生きていけない。いくら好きあっていたからといって生まれ持った性質はどうしようもないのさ」
「悲恋だね」
キーゴは寂しそうに言った。
「おや、ちびちゃん。悲恋だなんて言葉よく知ってるね」
マージョリーは初めてにっこりと目を細めた。
「うん!あ、ひらめいたよおばあさん!僕たち帰りに砂漠に寄って、ラープスのおじいちゃんにマージョリーおばあさんがここにいるって伝えといてあげるよ!」
「おい、お前そんなん安請け合いせんと…」
「ありがたい申し出だけどね、おちびちゃん。いくらラープスが年くって図体がでかくなったからって言って、砂漠は広い。本当に。もう二度と会えることはないだろうよ。行きに出会えたのが奇跡みたいなもんさ」
「でも…」
キーゴは不満そうだった。
「いいんだよ」
マージョリーは一度目を閉じ、息を吐き出してからこう言った。
「でも、ありがとうね」
 そうして、もう一度にっこりと微笑んだ。

37、バナナゲット!

「お前たち…そういえばバナナが欲しいんだったね」
「うん!それでお母さんの病気を治してあげるんだ」
それを聞くと、マージョリーは一度だけ頷いた。
「そうかい…。じゃあ、好きなだけ持っていきな。と言っても、もう一房しかないけどね」
「ええんかい?」
「ああ。懐かしい話も聞けたし。もともとあたしにとってはただの雑草だよ。本当はツキヨイマチグサなんかを生やしたかったのに、どこで紛れ込んだのかいつの間にかこんなのがなってね。それ以来、人間が勝手に甲羅の上に上っちゃ、人が大切に生やしてるものを全部、切り倒したりぶちぶち引っこ抜いていったんだ。まあ、そういう奴らは全員そのまま海にもぐって溺れさせてやったけどね」
思い出しただけでも腹が立つのか、マージョリーは右のヒレをべちべちと砂浜に叩きつけながら言った。
「そうなんだ。おばあさん、大切なお花取られちゃって怒ったんだね」
 キーゴは哀れむように言った。
「まあもう昔のことさ。今となっちゃ、何にもない方が手間がなくていいと思ってるくらいだよ。それよりほら、早く取りな」
 そう言うと、マージョリーはキーゴに甲羅の上に上がるようあごで促した。
「うん。じゃあ、ごめんね」
少し申し訳なさそうな顔をした後、キーゴはマージョリーの甲羅の上によじ上った。そして中央に一本だけ生えているバナナの木を非常に器用に登っていった。ジヴはそんなキーゴの姿を砂浜から見守っていた。
やがてキーゴはバナナのところまで到達すると、真上からジヴに向かって叫んだ。
「あった!バナナだー!すごい、すごくきれい!ジヴ!バナナすごくきれいだよー!すごーい!」
 キーゴは両手を木から離し、両足だけで全身を支えると、大きくバンザイをした。そしてそのままなかなか上から降りてこようとしなかった。
「キーゴ!きれいなんよう分かったから、早うバナナ取って降りて来いや!」
ジヴはそんなキーゴの様子を見てハラハラしながら叫んだ。
「ちょっと待ってー!今投げるから!んーしょっと!取れた!」
 キーゴがバナナのところでなにやらもぞもぞ動いたかと思うと、しばらくして上から七本のバナナがジヴの両手の中にズシンと落ちてきた。
「これが…」
ジヴは言葉にならなかった。バナナはジヴが考えていたものとは少し違っていた。
色とりどのバナナの皮は全て半透明でキラキラと輝き、まるで一本一本が高価な宝石のようだった。うっすらと透けて見える中の身は白く、まるで中に光が閉じ込められているかのようだった。
「ね?きれいでしょ、ジヴ」