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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

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どんより海岸は水がとてもきれいで、浅瀬でも貝や魚や色とりどりの海草が生えていた。 
これで天気さえ良ければ、ここはきっととても住みやすい場所になっていたに違いないと、ジヴは思った。
「あ、見てみてジヴ!この海草、すごくきれいだよ!たくさんあるー!」
キーゴが水の中から掴みあげたのは、真っ赤で花のような海草だった。
「そんなんええから、もっと腹にたまるもん取れや」
ジヴは目の前をくるくると旋回する魚に夢中で、あまりキーゴの方を見ていなかった。
「しっかし…これからどうしたらええんやろか?」
ふとジヴは魚から目をそらし、海の方を見やった。
目の前に一島の密林らしきものがあるのに、そこに行く手段がない。
キーゴは昨晩一人で泳いで行ってくるといって聞かなかったが、万が一なにかあったら…と、ジヴはその考えには断固として反対した。
「こんなに苦労してここまできたっちゅうに。いっそ、島の方からこっち来たらええねん」
ジヴはぼそりと呟いた。
「ん?」
その時、ジヴは少し妙なことに気が付いた。その違和感を確認するためにもう一度足元にいた魚に目を戻した。(魚はすでに逃げた後だった。)そして、もう一度一島の密林の方を見た。
「!」
気のせいではなかった。島の位置が昨日と比べて少しずれていたのだ。
それに、島の中央に一本しか生えていなかったはずの木が、何故か丘の端にもう一本生えているように見えた。
「なんやあれ…おい!キーゴ!」
ジヴはいまだ海草取りに夢中になっているキーゴに向かって叫んだ。
キーゴの手は赤い海草でいっぱいになっていた。
「いつまでそんなん取ってんねん!ええから島の方見てんか!」
「島…?あれ?島ないよ?あ、あった!あれ〜?」
キーゴもおかしさに気が付いたようだった。
「な!島の位置変わってるやろ?」
「確かにそうだね〜」
キーゴは不思議そうに首をかしげた。
「それだけじゃないねん。あれ、あの木!」
「丘の上の木は変わってないようだけど…」
「そこはええねん。今はそこじゃなくて、なんかあの島、木がもう一本増えてへんか?ほら、あの端に」
「え、あ、本当だ!でも…あれ…もしかして…」
キーゴが考え込むように言った。
「もしかして…なんや?」
「うん。ねぇ、ジヴ。僕にはあの端っこの木、木じゃなくて何かの首に見えるんだけど、変かな?」

33、一島の密林の正体

首と聞いて、ジヴの頭の中にピカリと閃くものがあった。
「首か…首な…確かに首って考えると…。なあ、キーゴお前あの形以前にどっかで見た気せえへん?」
「んー、どこで?」
「例えばな…砂漠で、恋人をずーっと探し回ってる亀のじいさんに会った時とかや」
「あっ!言われたら確かにラープスのおじいちゃんに似てるかも!でも、あのおじいちゃんは甲羅の真ん中がへこんで大きな水溜りになってたから、少し違う気もするけど…」
キーゴの言葉を聴いているのかいないのか、ジヴは指であごを挟むと、何やらぶつぶつ呟いていた。
「『日向ぼっこの好きなマージョリー』、『自分を飾るのが好きな』…『ヒラフサバナ』『海草』…」
「ジヴったら考え事〜?」
「おい!」
突然ジヴが叫んだのでキーゴはびっくりして、手に持っていた海草を全部落としてしまった。
「どうしたの急に…」
「この海岸が晴れる日はいつや?」
「この海岸が?えーと、これだとあさっての…お昼かな?ちょっとだけ晴れるみたいだけど…」
「それや!」
ジヴは嬉しそうに指をぱちんと鳴らした。
そして、キーゴが先ほどまで夢中になって取っていた海草が海面に広がっていくのを見て、ますますにんまりした。
「キーゴ、お前、お手柄かも知れへんで」

34、海草と草花作戦

ジヴはキーゴが言ったどんより海岸が晴れる日の朝を待って、先ほどの赤い海草と、森に行って、珍しい花々をこれでもかというくらい摘んできた。  
そして、海岸の一番目立つ位置にその海草と花束を置いておき、自分たちは近くの茂みに身を潜めた。
空は徐々に明るくなり、晴れ間が見え始めてきた。
「ねぇ、ジヴ。本当にこれで上手くいくの?」
「俺の勘が正しかったらな」
「日が出始めてから結構待った気がするけど…」
「しっ!海見てみ!」
キーゴはジヴに言われ、茂みの穴から海の方を覗き込んだ。
すると、なんと「一島の密林」がゆっくりとこちらに近づいて来たではないか。
前回のように首のような木は見えなかったが、その姿はまさしく何か大きな生き物が海を泳いで来るようだった。
丘の上に一本だけ生えているバナナの木も(それはまさしくバナナの木だった!)、そしてそこになっている鮮やかなバナナも、今でははっきりと見える位置まで来ていた。
「うわぁ、すごい。本物だ、本物のバナナだよ!」
「しっ!もうちょっとで海岸に着くから黙っとき!」
ジヴの言うとおり、「一島の密林」は、寄せる波に乗るように、その大きさに似合わず静かに、砂浜に到着した。
「!やっぱり『一島の密林』って…うっ!」
「だーかーら、声出すなって言うたやろが」
ジヴに口を押さえられたキーゴは、ジヴの手のひらの中で何やらもごもごと言った後、両手でジヴの手をどけ、小声で囁いた。
「すごいね!ジヴ、大正解」
「ああ、俺の思ったとおりや」
ジヴは得意げにキーゴに微笑みかけた。
「『一島の密林』の正体は、海亀のマージョリーやったんや!」

35、マージョリー現る

ジヴの言うとおり『一島の密林』は島ではなく、砂漠で出会ったラープスくらいの大きさの(もしかすると、もっとあるかもしれない)巨大な亀だった。
しかし、ラープスと違う点はこちらは陸亀ではなく、海亀だということ。ラープスの甲羅がへこみ、水がたまっていたのに対して、こちらは甲羅がこんもりと盛り上がり、バナナの木が生えているということだった。
「でも、確かに亀さんではあったけど…本当にラープスのおじいちゃんが探しているっていうマージョリーさんかは分からないよね?」
キーゴがジヴに尋ねていると、
「こそこそこそこそ、そこでなにやってんだい!」
ジヴたちが潜んでいる茂みに向けて鋭いおばあさんのようなしゃがれ声が飛んできた。
「誰だい!?出といで!」
「うわっ、バレた!」
「はーい、出るよ〜」
いつものようにキーゴがのんびりと返事をして、勝手に茂みから出て行ってしまった。
「あ、こら。またお前は」
「だってこれ以上隠れてたって仕方ないもん」
「あんた…人間だね」
『一島の密林』はキーゴを見るなり、目を細め、警戒心を露にした。
「一応俺もいるんやけどな」
「なんだい、今度は毛むくじゃらの人間かい?」
「ちゃうわ!俺はトロルや!」
「トロル?まあ、なんでもいいさね。せっかく人が天気がいいから甲羅を干そうと思っていたところだったのに、邪魔しくさって」
そう言うと、『一島の密林』はジヴたちに背を向けてさっさと海に戻ろうとした。
「ちょちょちょ…待ってや!」
「なんだい?こっちは人間に用はないんだよ」
『一島の密林』はけんもほろろだった。しかしここで帰られては元も子もない。ジヴは必死で引き止めた。