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シーラカンス
シーラカンス
novelistID. 58420
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人食いトロルと七色のバナナ

INDEX|16ページ/21ページ|

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 雪の精がひるんだ隙に、ジヴはキーゴを抱え上げ、自分が上ってきた道とは反対側の氷の崖へ一目散に走り出した。
「い、痛い!目が…目が!騙したわね!…おのれおのれおのれ!」
 雪の精は両腕を大きく広げたかと思うと、その姿は大きな雪崩に変わった。
「逃がさない!二人とも生き埋めにしてくれる!」
 ジヴは足元を見て、あまりの高さに一瞬ひるんだが、ぎゅっと目をつぶると「ままよ!」のかけ声とともにキーゴを抱えて崖の下へ飛び降りた。
着地した瞬間、つま先から脚の付け根までをしびれるような痛みが走ったが、なんとか踏みとどまった。
 すぐ背後には、雪の精が変化した雪崩が襲い掛かってきていた。
「さぁ、早くしないと飲み込まれちゃうわよ!ふふふふふふ」
 雪の精が不敵に笑う。
「しつこい奴や!」
ジヴは背負っていたリュックを再び下ろすと、自分の尻の下に引き、キーゴを抱え込んだままソリの要領で残りの急斜面を滑り降りた。
「逃げ切れるかしら!?」
 雪の精はまるで楽しむかのように声を張り上げた。しかし雪崩は先ほどのジヴの目潰しが効いているのか、時折見当違い方に進路が変わり、ジヴに追いつくのが遅くなっていた。
「うぉーーーーー!」
リュックの肩ベルトをソリの手綱代わりにして、ジヴは途中でぶつかりそうになる氷の壁をぎりぎりのところで避けていった。その間も、反対の手ではキーゴをしっかりと抱きとめて離さなかった。
耳が切れそうになるほどの風を感じながら、右に左にとジヴたちは滑り降りていった。途中雪崩に巻き込まれそうになったが、すんでのところでジヴが肩ベルトを操作し、急ハンドルを切った。
「ええい!ちょこまかと!」
 背中越しに雪の精の苛立ちが伝わってきた。ジヴは前と後ろをを交互に見やりながら、
「早く!もっと早くや!」
と叫んだ。
氷と雪と氷柱しかない斜面を疾走していく中で、ジヴはあることに気づいた。頂上より斜面が滑りやすくなってきたのだ。不思議に思って辺りを見回せば、地面から突き出る氷柱の数が、先ほどより少なくなってきていた。それと同時にだんだんと頬に当たる風も冷たくなくなってきていた。これによってジヴは、山のふもとが近いことを悟った。
「しめた。もう少しや!」
自分に言い聞かせるようにしてジヴは全神経をソリの前方にに集中させた。ソリはぐんぐんスピードを上げていった。それに反比例するかのように、雪崩のスピードは徐々に遅くなっていった。
そして、ついに草地が見えてきた。後ろを見れば、頂上付近では勢いのあった雪崩が、今はすっかり小さくなっていた。
「あ、暖かい…ダメ、暑い…暑いのはダメなのー!」
 そこまで言うと、雪崩は緩やかに止まった。
「はっ!こうなると、雪崩じゃなくてただのジェラートやな」
 大地に降り立ったジヴは、後ろを振り返ってあかんベーをした。後にはほとんど水溜りのようになった雪の残骸が残っているだけだった。
「くっそぉ。覚えていろ!覚えているがいい!」
 恨めしげな声を出しながら、溶け残った雪とともに、雪の精はどこかに消え去ってしまった。
 こうして、二人は鏡山を越えた。
「おい、キーゴ!大丈夫か!?」
 雪の精が去った後、ジヴは思い切りキーゴを揺さぶった。
「ジ…ヴ…」
 顔全体が紫色に変色し、体が文字通り氷のように冷たくなっていたキーゴだったが、なんとか一命は取り留めたようだった。
「生きてるか…?」
 ジヴが心配そうにキーゴの顔を覗き込む。
「ジヴ…僕を抱っこして走ってるとき、すごく暖かかったよ」
 弱弱しい笑みを浮かべながらキーゴは言った。
「ごめんな。お前のおかんへの土産、ぶちまけてしもた」
ジヴは少し申し訳なさそうに言った。しかし、キーゴは静かに首を振って言った。
「ありがとう。僕、ジヴ大好き」

  31、どんより海岸

 そこからまた数日歩き続けると、小さな森があった。
そこを抜けると、目の前には海が広がっていた。ジヴの記憶では、地図に「どんより海岸」と記されていた海辺だ。
その名の通り森や海岸はどんよりとした雲に囲われ、常に空気がじめじめしていた。
「なんや、海に出て来たけど、一島の密林もバナナも、どこにもないやんけ」
「道を間違えたかな〜?それともさっき抜けてきた小さな森が『一島の密林』?」
ジヴはキーゴに言われて、もう一度ほとんど使い物にならなくなった地図を眺めつすがめつして見た。
「いや、そんなはずないねん。ぼんやりとしか分からんけど、この海岸のどこかに小さな島が…」
「島…?島、島…あ!あれかなぁ!?」
キーゴが指差す方を見ると、ジヴたちから遠く離れた場所に、海に浮かんだ「島」というより「丘」のようなものが見えた。そして、その丘からは何かの木のようなものが一本だけ生えているのが見えた。
「あれ島かぁ?丘にしか見えへんし、『密林』やないないか。ただの一本の木や」
ジヴは額に右手を当て、背伸びをしてその丘をよく観察した。
「でも、他には何にも見えないよ」
実際、キーゴの言うとおりだった。その一本だけ木が生えていそうな丘以外、海岸にも海にも島と呼べそうなものは全く見当たらなかった。
「とにかく、行ってみようよ!」
キーゴはすでにバナナがあるかもしれないという予感でわくわくしているようだった。
「ちょい待て。行ってみようってお前、あそこまでどうやって行く気なんや?」
「ん〜、泳いでかなあ?」
キーゴがのん気に答えると、ジヴは急にブルブルっと身震いをした。
「泳いで!?」
「うん!僕泳ぎは得意だよ!あの辺までだったら行けるかもしれない」
キーゴは誇らしげに言った。
「それ、な…」
キーゴの言葉を聞くと、ジヴは何かを言いづらそうに、もじもじとし始めた。
「ジヴ?」
「それなんやけどな…俺な…」
「あー、もしかしてジヴ…泳げないの?」
「…!」
どうやら図星だったようだ。ジヴは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「えーやろ!?別に!誰にでも欠点はあんねん!」
「えー、意外だなぁ」
キーゴは恥ずかしがるジヴが面白くて、ニヤニヤした。
「うるさいわ!とにかく!泳いでいく案は却下や却下!」
「ちぇ…じゃあ、いかだでも作る?」
方法はそれしかなさそうだった。
ジヴたちは早速先ほどの小さな森に舞い戻り、ジヴはいかだに使えそうな木々を、キーゴは木を縛るのに使えそうなツタを探しに行った。
その小さな森にはジヴが住んでいた森にはなかった花々がいっぱい咲いていた。しかし、いかだに使えそうな巨大な木はあまり見当たらなかった。
それでも珍しい植物や集めた材料でいかだを作ってみると、それなりのものができた。
しかし、浅瀬に浮かべ、ジヴが乗ってみるとすぐに沈んでしまった。
二人は懲りずにもう一度、挑戦してみたが、今度は結んでいたツタがゆるくてバラけてしまった。
「らちが明かんな」
ジヴが呟いた途端、海岸には雨が降り出した。キーゴたちは仕方なく、森のほうに引き返し、木の下で雨宿りをした。

32、動く島

次の日になっても空は晴れることはなく、空にはどんよりとした大きな雲がかかっていた。
「嫌な天気やなぁ…」
「そうだね…」
二人はそう言いながら、まずは海辺や浅瀬に朝ご飯になりそうなものを探しに出かけた。